苗を持って並んでいる家族たち

自然豊かな「小田原」の魅力を発信 無農薬の田んぼで家族らが田植え 森と海の保全目指す、鈴廣かまぼこ

 ▽生き物にふれあう

 「うまくいくかな」「(田んぼの)水が温かい」「魚がいる」などと子どものはしゃぐ声があちこちから聞こえてくる。
6月下旬の午前中、気温が30度近くの炎天下、神奈川県の西部に位置する小田原市にある、無農薬、化学肥料を使わない田んぼで田植えが行われた。地元や首都圏から、親子連れや夫婦、友人同士ら計約150人が参加し、服に付く田んぼの泥も気にせずに、専門家のアドバイスを受けながら、苗を一本一本、慎重に植えていった。
イベントを企画したのは、小田原市に本店がある「鈴廣(すずひろ)かまぼこ」(鈴木博晶社長)。
食を扱う同社は、小田原の自然や文化を楽しみながら体験できるさまざまなツアーを企画し、地元の魅力を肌で感じ取ってもらうとともに、世界に「小田原」の豊かさを発信している。
今回のツアーの〝舞台〟は、小田原市にある、1887(明治20)年創業の志村屋米穀店が管理する、農薬や化学肥料も使用しない田んぼだ。5代目の志村成則さんが、田植え指導を行い、鈴廣かまぼこの社員らがサポートした。
県内の箱根山と丹沢山地の麓などで、無農薬、無化学肥料の米作りを実践している志村さんは「(無農薬の)田んぼには、ドジョウやカエル、魚など生き物が多い。それらにふれあいながら、楽しみながら田植えを体験してほしい」と話した。
この日は、二つのグループに分かれ、甘みがある「緑米」(みどりまい)という古代米の苗をみんなで植えた。志村さんによると、この緑米は「世界一予約が取れないレストラン」ともいわれるデンマーク・コペンハーゲンにある「ノーマ」が、今年3~5月、京都に期間限定でオープンした店の土鍋ごはんに採用されたという。

パネルを掲げながら説明する田口さん(左)と志村さん

 ▽かまぼこは連環の象徴

 田植えを始める前に、鈴廣かまぼこの広報担当・田口徳子さんが、自社が取り組んでいる海と大地をつなぐ食の資源循環モデルについて、パネルを掲げながら説明した。その鍵となるのは、かまぼこを作る際に出る魚の皮や骨、内臓や、自社の箱根ビールの搾りかすなどを利用し開発した、良質な魚肥である「うみからだいち」だ。
同社は「かまぼこの身は海、かまぼこの板は森。森と海が一体となった食べもの」であるという認識の上、かまぼこが、森と海の連環を象徴していると考える。その連環がなくなれば、「お魚がいなくなり、かまぼこもつくれなくなる」ため、企業として森と海の保全といった自然環境への配慮に努めているという。今回の田植え体験ツアーも、その一環だ。
田口さんは、子どもたちに、かまぼこを作る際に、魚のアラが出ることを紹介し、そのアラなどで有機肥料を作ることを説明。この取り組みに賛同する地元の農家と一緒に、野菜や果樹などを栽培し、「安全・安心でおいしい作物を育てています」と話した。
同社は既に、魚の肥料で育てたシソで巻いた、かまぼこ「かをり巻」のほか、ジャムや日本酒などを売り出している。

田植えをする子どもたち

 ▽「また、やってみたい」

 さぁ、田植え開始だ。2グループに分かれて、田んぼの端に並び、鈴廣かまぼこの社員らから苗を手渡しでもらった。田んぼの両脇には、志村さんや社員らが膝立ちしながら、30センチごとに緑色の目印の付いた赤色のロープを引っ張り、子どもたちはその目印に向けて苗を植えていた。1列目の田植えが終わると、社員らは赤色のロープをずらし、2列目の作業に入る。
田植えが終わった後、東京から家族連れで参加した自営業・男性は「田植えは以前から興味がありました。初めての経験でしたが楽しかった」と汗を拭きながら語った。男性の小学5年の長女は「田植えは最初、うまくいかなかったけど、何回かやるうちに慣れてきた。これまで知らないことを知ることができて、勉強になった。また田植えをやってみたい」と笑顔で話した。

地産地消バイキング「えれんなごっそ」で食事をとる家族たち

 この日の作業後、参加者は、同社が運営する「かまぼこの里」内にあるレストラン「えれんなごっそ」で食事をとった。この店では、小田原、箱根の自然が育てた海の幸、山の幸をふんだんに使った約50種類の中から、好きな料理を選んで味わえる。また、鈴廣かまぼこが醸造する地ビール「箱根ビール」も楽しむことができる。
魚肥「うみからだいち」を使って育てられたコメも用意され、テーブルで子どもたちは、先ほどの田植え体験を振り返りながら、おいしそうに食べていた。
鈴廣かまぼこの企画開発部・松井孝成部長は、「うみからだいち」について「10年以上前から、食品を扱う企業として持続可能な社会貢献ができないかという意識で始めました。このほか、SDGsの取り組みの一環として、プラスチック利用量削減を進めるため、商品パッケージの見直しを実施しています。なるべく環境負荷が少ないようなプラスチック素材がないかということを模索しており、今後も順次切り替えていく計画を立てています」と指摘し、森と海の保全に力を入れていくことを強調した。

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