キノコは山里で楽しめる秋の味覚の代表格と言っていいだろう。中でもマツタケはその希少性もあってキノコの王様としての地位は揺るぎない。
実は当地はかつてマツタケの産地として鳴らした土地柄で、現在は往時の収穫量には遠く及ばないものの、共有林のアカマツ林では今もマツタケ山の区画を設定して入札で販売している。落札した人は夏場から晩秋までその区画でのキノコ採取権を得る。
ただ、マツタケが出る頻度は低下する一方で、入札価格も右肩下がり。秋口ともなれば隣人たちとの世間話にマツタケ山の話題も加わり、落札した人もそうでない人も「今年はどうだい?」と噂し合うのが常だが、「まったくダメ」と景気の悪い言葉ばかりを聞かされるのが最近の傾向だった。
ところが、今年はマツタケが近年にない豊作のようで、有力産地として知られる長野県内のあちこちから景気の良い話が伝わってくる。当地でも、いつもなら「ひとり1パック」などと制限をかけている道の駅が無制限での販売を続けている。
そして当家にもさる筋からの到来物があり、マツタケご飯、茶わん蒸し、吸い物が食卓をにぎわせ、家族みんなで舌鼓を打った。庭の隅から採ってきたミツバもよく合い、新潟の知人がくれた銘酒の杯は進むばかりであった。
この時期、集落の親睦会では、会で落札した山にみんなで出かけ、キノコ狩りを楽しむのが恒例となっている。昨年は「雑キノコ」と呼んでいるマツタケ以外のキノコも含めて収穫はほとんどなかった。だが、豊作の今年は違うはずと、連休の1日、都合のついた8人で勇躍、山に分け入った。
かなりの急傾斜地を歩き回ること2時間半。マツタケどころか雑キノコもほとんど採れず、しょんぼりと山を下りることになった。収穫祭になるはずだった晩の懇親会のメニューはどうするか。わずかに採れた素性のわからないキノコをぶち込んでの闇鍋にするかと揶揄し合う声にも疲れがにじむ。
ところが、なんとメンバーのひとりが「こんなこともあるだろうと、この日のために取っておいたんだぞ」と見事なマツタケを1本提供してくれた。裂いてホイル焼きにしたもののうまかったこと。
「これも取っておいたやつ」と、虚無僧や与平治の異名があるショウゲンジという雑キノコも何本も提供してくれ、それを具にした味わい深いうどんをみんなですすり、杯を重ね、たわいない話で盛り上がりながら秋の一夜を過ごしたのであった。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.40からの転載】
赤堀楠雄(あかほり・くすお) 林材ライター。1963年生まれ、長野県在住。林材新聞社(東京)勤務を経て99年に独立。森林・林業・木材・木造住宅などに関する取材、執筆を行う。著書に「林ヲ営ム〜木の価値を高める技術と経営〜」(農文協)など。
![b.[ビードット]](https://d26qpuj9rvgv8w.cloudfront.net/wp-content/uploads/2018/04/Logo-5.png)
