b.[ビードット]
岩本寺の住職を務める窪博正さん

水中座禅にアートな境内歴史ある四万十町で出合う、新しい「お寺と町のカタチ」

 高知県西南部に位置する四万十町。窪川町・大正町・十和村の3町村が2006年に合併して新たに発足した。町を象徴するのは四国最長であり、「日本最後の清流」と称される四万十川。その清らかな水と豊かな自然は、仁井田米や四万十栗など多彩な恵みをもたらす。

 弘法大師・空海が修行をした四国八十八カ所の霊場をめぐる四国遍路で、札所と札所の距離が長いことから「修行の道場」と呼ばれる高知。かつては修行僧を中心に歩まれてきたが、近年ではパワースポットや癒やしの旅先としても親しまれ、国内外から多くの巡礼者、いわゆる「お遍路さん」が訪れている。

 四万十町の高台に構える「岩本寺」は第37番札所として知られ、その起源は奈良時代にまでさかのぼる。1300年もの時を刻み、これまであまたのお遍路さんを迎えてきた伝統ある寺だが、訪れてみると、その魅力は誰でも気軽に訪れられるようにと新しい風を取り入れ続けているところにあった。

▼四万十川で五感を研ぎ澄ます水中座禅

 まず目を引く面白そうな体験が、町の代名詞でもある四万十川で行う「水中座禅」だ。座禅はどこでもできるという考えから生まれた取り組みである。実際に四万十川の中で座禅をしてみると、水圧で普段よりも体幹が安定し、座りやすく感じる。静かに目を閉じると川のせせらぎや鳥のさえずり、すがすがしい空気の香りなど、五感が鋭く研ぎ澄まされる。目をあけた時の水面越しに広がる四万十川の景色はどこまでも壮大で美しい。

四万十川で行う水中座禅の様子

 

▼伝統と現代が共存する「岩本寺」

 境内も一味違う。境内に足を踏み入れてまず目を引くのは、山門に描かれたポップなイラスト。湘南出身のアーティスト・SHETAさんによる作品である。かわいらしいタッチの中にも深い意味が込められている。カラフルなハートは人々の心を、ホースからあふれだす水は「四万十川の清流」と「お遍路による心の浄化」を表している。地域に根付く伝統を大切に、「みんなの心をひとつに、未来へ向かって支え合う」という温かいメッセージが感じ取れる。

SHETAさんの作品。コンセプトは“REFRESH”

 

 本堂の天井を見上げてみると、そこには一面を埋め尽くすイラストが広がる。これは、1978年に幅広い世代の人々によって描かれた575枚の天井画である。プロからアマチュアまで作品の味わいもさまざま。「お寺に足を踏み入れるハードルを下げたい、誰でも気軽に訪れてほしい」という思いが込められている。

本堂の天井には575枚の天井画が並ぶ

 

 伝統のある境内を守り、新たな歴史を紡ぐのは住職の窪博正さん。2019年から住職を務め、今年で8年目を迎えている。

 この寺で生まれ育ちながらも、元々は家業を継ぐつもりもなかったという。「寺の小僧でありながら、関わろうと思ったことすらなかった。父親に継いでほしいと言われたこともなかったから」と正直な気持ちを話す。しかし、就職先が決まった大学時代、父親から「もし寺を継ぐ気があるなら、腰掛けで就職するのはもったいない」と言われ、その時に初めて自身の境遇を意識したという。“寺の子に生まれながらも、仏教の世界を知らずにいるのはもったいない”そんな気持ちで仏教系の大学に編入を決意。いざ仏教の世界に踏み込んでみると、厳格な「儀式」の大変さと同時に奥深さや面白さも感じたという。大学を休学して京都の寺で修行に打ち込んだ1年間は「苦痛と思ったことがない」と語る。まさに“寺の子”として生まれた宿命なのかもしれない。こうして経験を重ね、30歳で岩本寺に入る。

朝6時から本堂でお勤めを行う

 

 窪さんは学生時代の恩師から言われた言葉「伝統は創造の連続性」を大切にしているという。伝統を大切に尊重し、とはいえ過去にとらわれない。未来を創るためにはアクションを起こさなければならない。

  岩本寺には宿坊があり、お遍路さんのみならず誰でも宿泊が可能。一部の客室にも、宿坊の常識を覆すようなアート空間が広がる。山門のイラストを描いたSHETAさんのイラストだ。八十八カ所のうちの37番目、ちょうど旅の疲れが出始める頃。明日からの巡礼へ向けて気持ちを鼓舞してくれる。

岩本寺・宿坊の部屋


関連記事

スタートアップ

スポーツ

ビジネス

政治・国際

食・農・地域

株式会社共同通信社