「日本は、魚より先に漁師がいなくなるかもしれない」。一部の漁業者やアカデミアの専門家たちが危惧するこのシナリオには、国が発行する統計データを見ても頷かざるを得ない。日本の漁獲量は、ピーク時の1984年から約40年間で7割以上減った。漁業就業者数も、1988年の約39万人から約35年間で7割以上減少している。
生活者の食卓にダイレクトに関連する漁獲量減少については、ニュースになることも増えたが、水産インフラを支える「人手」も大きな課題を抱えていることは、あまり知られていないだろう。
そうした中、多くの生活者に知られるあの企業が、水産業界の人手不足に本気で向き合っている。“スキマバイト”でお馴染みの「タイミー」だ。
これまで水産現場での人手確保といえば、知人の紹介かハローワークが大半だった。しかし、情報の入り口がスマートフォンである現役世代に、その声は届きにくい。
そこでタイミーの出番だ。なんと1340万人ものワーカーが登録しており(2026年1月時点)、駅から遠い地方港でも高いマッチング率を誇るという。さらに自然相手の“波”が激しい現場において、ピンポイントで人手が欲しい瞬間にも威力を発揮する。たとえば、突発的な大漁の日。船の上から募集をかければ、港へ帰る頃にはワーカーが待機してくれている、というから驚きだ。
「そうは言っても、水産現場で素人に何ができるのか?」そんな問いに対し、タイミーは業務プロセスの切り出しを提案。血抜きなどの熟練技が必要な「感覚型」作業はプロが担い、梱包や出荷補助などの「単純型」作業をワーカーに任せる。この役割分担が、限られた熟練リソースを高度業務に集中させ、教育コストを劇的に下げる。
タイミーによる作業マニュアル作成のサポートもあり、受け入れ側の心理的ハードルも下がっているようだ。こうして人手に余裕ができれば、販路開拓やイベント出展といった「攻め」のチャンスも生まれるだろう。
面白いのは、タイミーでのスキマバイトをきっかけに、漁業者や水産加工事業者として「長期採用」に至る事例が増えている点だ。近寄りづらいと思われがちな水産現場だが、スキマバイトという気軽さでのぞいてみたら、魅力にハマっていつのまにか本業に…。タイミーも、そうしたご縁の創出に前向きだ。会社員が副業として早朝だけ港で働くといった、新しい労働の形も定着しつつあるという。
水産業への就業といえば、移住も加味した「新規就業」か「親族継承」という重い選択肢しかなかった。「0か100か」のような労働市場に今、スキマバイトを介した〝すきま〟が生まれている。
地域活性化の話題でよく言われる「関係人口」が水産業界でも増えていくことは、個々の現場を救うだけではなく、業界全体に新たな出会いと可能性をもたらす転換点となるはずだ。
なかがわ・めぐみ (株)ウオー代表取締役。「釣り・漁業×地域活性」を軸に日本各地で観光コンテンツの企画・PRなどを行う。漁業ライターや水産庁・環境省などの委員も務める。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.20からの転載】
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