古くは明治の初代文相・森有礼(ありのり)の英語、戦後は小説の神様・志賀直哉の仏語と、近代化の推進や戦前への反省から外国語の「公用語化論」が過去に唱えられたことがあったが、昨今は「経済のグローバル化」の進展に伴い、社内使用言語を英語にした楽天のほか、経済制度の中で英語の使用を求める動きが目立っている。
東京証券取引所は2025年4月から、東証プライム上場企業を対象に決算情報・適時開示情報の日本文と英文の同時開示を義務化した。英文開示義務化の背景を東証はこう説明する。「日本の株式市場において海外投資家の存在感は年々増大しています。海外投資家の株式売買金額は2023年で1200兆円規模まで拡大し、全取引の約6割を構成する重要な投資主体となっています。また株式保有比率は3割を超えており、主要投資部門のうち海外投資家(外国法人など)の株式保有比率が最も高い」(24年10月、東証「英文開示実践ハンドブック」)。英語での発信を上場企業に促し、日本の株式市場に海外投資家の投資をさらに呼び込むことを目指しているようだ。
また企業の実態を把握するグローバル基準の“モノサシ”として海外投資家への透明性が増すとされている原文英語のIFRS(国際財務報告基準、イーファス)の導入が大企業を中心に年々増えている。東証の調べではIFRS導入の企業数(導入の決定・予定企業を含む)は300社(25年6月末時点)。社数は上場企業全体の1割に満たないが、導入企業の時価ベースは504兆円と時価総額の半数を占めており、原文英語のIFRSの“影響力”は増している。

さらにこれらの経済のグローバル化に伴う英語の使用、英語の活用を求める動きは、日本の“難関国家資格”の一つとされる公認会計士試験の内容に及び、同試験を実施する金融庁公認会計士・監査審査会(青木雅明会長)は25年12月16日、「令和9年第1回短答式試験」から英語での出題を始める、と発表した。英語での出題問題は財務会計論、管理会計論、監査論の3科目で、配点は総点数の1割程度とする方針を示している。すでに英語出題サンプルを示し、「令和9年第1回短答式試験」の実施日や英語での出題範囲を6月に正式発表する予定としている。

英語での出題理由について、同審査会は「IFRS適用企業の拡大やグループ監査への対応(海外子会社も国内同様の監査対応が必要)などにより英語との関わりが拡大しており、それに伴い公認会計士には一定の英語の能力が求められるようになってきています」と説明している。
公認会計士法は、公認会計士試験の目的を「公認会計士になろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定すること」(5条)と定めており、今回の英語での出題決定は、同審査会が、この合否判定対象の「必要な学識及びその応用能力」の一つに、“一定の英語の能力”を含めたことを意味する。
24年の公認会計士試験の出願者は2万1573人。合格率は7.4%。難関資格の受験生の多くにとって英語出題への対応が新たな負担として求められそうだ。
英語出題に関しては、公認会計士・監査審査会の発表から1カ月も経たない今年の1月7日付で、優れた会計職業人の養成を目的に「公認会計士試験のあり方に関する検討と提言」などを行う、国内の会計大学院12校でつくる「会計大学院協会」(兵庫県西宮市、理事長・山地範明関西学院大大学院教授)がコメントを協会ホームページに発表。「公認会計士試験の受験生に国際的な視野を求める手段としては望ましい」としつつ、「具体的な出題の内容についてはいくつかの懸念がある」として「十分な配慮」を公認会計士・監査審査会に求めた。
具体的には、受験生にテクニカル・タームの丸暗記を促すような出題としないことや、英語出題の配点が1割だと「捨て問」とされる危険性があり、その結果、協会が否定的な見解を示している計算科目の比重が相対的に高まることなどを「懸念事項」として挙げ、「公認会計士となることを目標とした学習の初期の段階で英語のテクニカル・タームを暗記するために多大な時間を費やすことが、日本語による学習を通じて会計制度や会計基準に対する理論的思考力を高めること以上に公認会計士の育成に資するか否かが慎重に検討されなければならない」と指摘している。

経済出版社の中央経済社(東京都千代田区)が運営する公認会計士試験受験者ら向けの情報サイト「会計人コースWeb」に掲載された今回の英語出題に関する「金融庁公認会計士・監査審査会に緊急インタビュー」と題した記事では、「外国人や米国公認会計士(USCPA)保有者、帰国子女とかに有利になったりしないでしょうか」との質問に、同審査会は「今回の英語による出題については誰かを優遇する・不利にするという意図を持って行うものではなく、あくまで公認会計士に求められる資質・能力の変化に応じて行うものです」などと答えている。
米国公認会計士(USCPA)受験の予備校大手の一つ、アビタス(東京都渋谷区)の馬場成実・執行役員は「USCPA受験対策で培った弊社の英語教材のノウハウを生かし、日本の公認会計士受験予備校と組んで今回の英語出題に対応した教材の制作を急ピッチで進めている」と話す。USCPA受験対策上の知見は、日本の公認会計士試験の英語出題への対策に生かせる、とする立場だ。
馬場さんは「英語出題の具体的な出題範囲は6月に公認会計士・監査審査会から正式発表されますが、英語での出題内容がUSCPA受験の試験内容と類似したものになるようだと、日本の公認会計士を目指す人の中でもUSCPAへの関心が今後高まることも考えられます。実際、英語での出題の発表があった後、大学に行くと、財務会計論などを教える大学の先生からUSCPAのことを聞かれることが多くなりました」と述べ、6月の正式発表に注目している。
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