お年寄りや障害者らが有意義な日常生活や職業生活を送れるようにする「リハビリテーション医療」が、特に高齢化が深刻な地方で重要性を増している。高齢化・過疎化が進む静岡県伊豆地域で半世紀余り利用者の“社会復帰”に努めてきた農業共済中伊豆リハビリテーションセンター(静岡県伊豆市)は1月20日、少子高齢化に伴う医療や障害者・高齢者福祉などの地域課題を報じている地方新聞社の東京支社長を招いた見学会を開き、地方で求められているリハビリテーション医療の在り方について意見交換した。
同センターは1973年開設。JA共済連(東京都千代田区)が、交通事故の自賠責共済事業の開始に際し、交通事故で身体に障害を負った人など身体障害者の治療や身体機能回復のリハビリ、福祉事業を提供する“社会復帰施設”として設けた。こうした開設経緯から、自動車運転の再開支援設備が充実しており、自動車教習所にあるような広大な自動車運転コースがセンター敷地内にある。

見学の冒頭あいさつしたJA共済連の村山美彦理事長は「われわれは障害を負った人に共済金を払って終わりではなく、その人が社会復帰するまで支援します。そのために、ここ伊豆市と大分県別府市にリハビリテーションセンターを造りました。センターで蓄積したリハビリや介護の専門知見は研修会を通じて全国のJA運営の介護事業所と共有しています。その意味で伊豆市と別府市のセンターは“リハビリと介護の総本山”の役割を果たしています」とセンターの重要性を指摘した。
また「われわれも地方紙の皆さんと同じく、地方や地域を良くしたい、元気にしたいという思いで事業に取り組んでいます。地方や地域を良くするためにわれわれは何をすべきか、何ができるかを一緒に考えていきたい」と話した。

高齢者の健康寿命延長や障害者の就業・社会参加促進の観点から近年「第3の医学」として注目が高まっているリハビリテーション医療の特長については、日本リハビリテーション医学会副理事長も務める美津島隆・中伊豆リハビリテーションセンター長が説明。「リハビリテーション科は“日常生活の困難・不自由さ(障害)”を診る点で、“疾患”を診る既存の診療科とは一線を画している。リハビリテーションという言葉は、再び人間としてふさわしい、望ましい状態にするという意味のラテン語から派生している」とリハビリの語源を紹介した上で「リハビリテーション医療は人間らしく生きる権利の回復、全人間的復権を目指しています」と述べた。
東京支社長らが見学したのは、科学に基づくリハビリを追求するための先端機器をそろえたリハビリエリアやセンター内にある静岡県内唯一の自立訓練事業を展開する障害者自立訓練施設「さわらび」や障害者支援施設「あゆみ」などで、各専門スタッフがそれぞれの取り組みを説明した。

リハビリテーションエリアでは、理学療法士の高原周作さんが、赤外線カメラを使って歩行など人の動きをデータ化する「3次元動作解析装置」を紹介。患者それぞれに適した科学的なリハビリ戦略の策定に役立てるために導入した装置で、高原さんは「ハリウッド映画でのアクションシーンやCGキャラクター制作などに広く活用されているモーションキャプチャーと同じ原理のシステムです。八つの赤外線カメラと床に敷いた体重のかかり方を計測できる床反力計を用いて、歩行時の関節運動や重心の動きなどをデータ化して最善の治療法を立案している」と述べた。
このような3次元動作解析装置を導入しているリハビリ施設は国内ではまだ少数で、高原さんは「年間300を超える歩行計測データはここの患者さんのリハビリ治療に役立てるだけではなく、専門スタッフが論文などを通してその分析結果を発表しており、学術的にもリハビリ医療界に貢献しています」と語った。

センターの特長の一つであり自動車運転の再開支援のための先端機器に関しては、「脳血管障害者の運転適性に関連する実車前評価」の研究で「第54回日本作業療法学会・スペシャルセッション最優秀演題賞」を受賞した認定作業療法士の生田純一さんが、運転再開を目指す人が「どこを、どれだけ、どのように見ているか」をデータ化して、脳損傷後の視覚情報処理を精密評価できる運転評価機器「頭部・視線計測付きドライビングシミュレータ」などの機能を説明した。
生田さんは「運転中の情報は9割が視覚情報に基づいているので、このシミュレータを使うと運転再開が可能かどうかを科学的に評価できる。屋外には自動車運転コースのほか、自動車の運転再開は難しいと判断された人が、自動車に代わる次善の移動手段として、シニアカーや次世代車いすの利用可能性を試すことができる段差や傾斜のある練習コースを設けています。公共交通機関が都心ほど普及していない地方で生活する場合には移動手段は大変重要ですので、自動車の運転が難しい人でも可能な移動手段を活用できるよう支援しています」と述べた。

2024年パリパラリンピックで金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表の西村柚菜選手が職員を務める障害者自立訓練施設「さわらび」では、職員の塩谷愛美さんが、就労に必要な体力や集中力などを身に着けるために製品作業を経験する「就労前訓練」や生活の自立に向けた洗濯、掃除などの身の回りの生活動作を学ぶ「身辺自立訓練」などの取り組みを話した。
塩谷さんは「一般就労を目指す人の可能性を引き出すとともに、障害者の就労機会の拡大に対する民間事業者の方々の理解促進にも取り組んでいます」と述べた。

見学時にちょうど、在宅で生活している障害者らがミシンを使ったバッグなどを制作していた「あゆみ」では、担当職員の佐野洋平さんが、弁当や総菜の販売事業などあゆみが請け負っている各種作業の内容を話した。あゆみの就労者の2024年度月額平均工賃は5万8503円で全国平均の2万3053円を大きく上回っているという。

東京支社長らと一緒にセンターを回ったJA共済連の村山美彦理事長はスタッフらに手土産を贈り、日ごろの職員の頑張りに感謝していた。
また障害者らが農業分野で活躍する「農福連携」を推進するJA共済連の姿勢をアピールするためにあゆみで制作された「農福連携バッジ」を制作したあゆみの就労者の女性に、スーツの襟に着けた同バッジを見せながら、手土産を贈り感謝の言葉を述べた。女性は「(見学は)事前に聞いていなかったのでびっくりしました。感謝していただきとてもうれしい」と笑顔を見せていた。
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