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外国人政策が日本社会に求めるもの 青山浩子 新潟食料農業大学教授 連載「グリーン&ブルー」

 不法滞在、社会保険料未納の外国人に対し、高市早苗政権は「排斥主義と一線を画しつつ、これらの行為に毅然と対応する」と外国人政策の見直しを始めた。日頃から外国人との接点が少ない日本人の中には、総体としての外国人にネガティブな印象を抱く人もいるのではないかと懸念する。

 農業現場を取材すると「日本人以上に頼りになる」「彼らがいなければ農業は成り立たない」などと話す経営者も少なからずいる。

 農業界には、6万人超(2024年12月時点)の外国人材が生産や加工などの仕事に就いている。大半は、技能実習生、あるいは就労を目的とした在留資格を持つ特定技能の人々だ。彼らは単に労働力を提供するだけではなく、農産物流通の安定供給を支えている。農家の取引先である食品スーパーや外食・中食事業者は365日、無休で店舗や工場を稼働しており、原料となる農産物も、同じように安定的に収穫、選果、納品が求められている。とはいえ、働く人は休みをとるし、育児や介護を抱えている人などは急遽(きゅうきょ)仕事を休まざるを得ないときがある。そうした隙間を外国人材が埋めている。

 体力を伴う現場作業において、外国人材の力を借りているのは事実だ。一方、近年は専門技術を持つ高度人材や、特定技能の中でも、在留期限のない特定技能2号の有資格者も増え、幹部社員として組織をまとめるような人も出てきた。農業界だけを見渡しても、外国人材は一様ではなく、ブルーワーカー、ホワイトワーカーが混在しながら食料生産を支えている。

 こうした中「日本人がやりたがらない仕事を外国人材に担ってもらうという考え方では、いつか誰も来なくなるだろう」と警鐘を鳴らす農業経営者もいる。実際、熊本県のある農業法人は外国人材に対し、現場での業務経験を積んだ上で、部下のマネジメント業務も同時に担当する“プレーイングマネジャー”となって活躍してもらうことを想定し、人材育成にあたっている。経営者は「日本人と同じように、一人一人の人生の選択肢を広げたい」と公平な視点に立つ。別の農業法人では、経営者の妻が、外国人材の生活面をサポートし、出産の立ち合いから育児の相談にまで乗っている。

 社会の秩序を整えるための政策に異論はないが、一方的に「社会ルールを守れ」と言うだけでは共生社会は実現しない。また、劣悪な労働環境下で声を上げられずにいる外国人の人権問題も解決が待たれる。なにより、メディアで取り上げることが少ない多くの善良な外国人材が、基盤となる産業を支えていることを忘れてはならない。

 外国人政策は、彼らを受け入れている日本人と日本社会が、外国人材とどう向き合うかという意識の醸成がされてこそ、機能するものだと思う。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.46からの転載】


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