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不安定増す米価 「米騒動」に共通する政策の迷走 アグリラボ編集長コラム

 米価格の高騰が収まらず、政府は備蓄米の放出に追い込まれた。「令和の米騒動」として歴史的な転機になる可能性がある。過去の米騒動に共通するのは、国際的な潮流の変化への対応の遅れと政策の迷走だ。

 米騒動に明確な定義はないが、1918年夏に起きた大規模な米騒動は政権交代を伴い「元祖」とも呼ぶべき画期的な意義を持つ。歴史の教科書にもあるようにシベリア出兵を控えて前年から米価が高騰し、各地で困窮者の救済を求める動きが活発になった。富山県魚津の主婦らが、米の移出を阻止するため地元産の船積みを妨害したことが「女一揆」として大きく報道されると、一気に全国規模に発展し寺内正毅内閣は同年9月末に総辞職した。

 「元祖」と並ぶのが「平成の米騒動」だ。新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の真最中の93年は冷夏で、作況指数が74となる大凶作だった。政府備蓄米の23万トンを全量放出しても当時の国内需要を満たすためには約200万トン不足し、政府は緊急輸入に踏み切った。細川護熙内閣は翌年4月に総辞職した。

 「令和の米騒動」がどのように展開していくのか予断できないが、過去の米騒動との共通点が2つある。サプライチェーン(供給網)の根本的な組み替えという国際潮流の中で起きていることと、政策の迷走だ。

 「元祖米騒動」は、第1次世界大戦によって英国を中心とする自由貿易体制が崩壊した時期に起きた。「平成の米騒動」は、東西冷戦が終了し貿易の自由化が急激に進む時期に起きた。方向は真逆だが、2つの米騒動は国際的なサプライチェーンの組み替え時期に起きた。

 「令和の米騒動」は、コロナ禍とウクライナ戦争による物流の停滞・停止を受け、効率よりも安定を重視する調達に転換が進む中で起きている。物流の代替ルート、複線化、短縮化が進み、不効率でも在庫を積み増す傾向が強まっている。

 農産物の産直販売が急激に普及し、米の流通は集荷、卸売り、小売りという伝統的なルートだけでなく、「バイパス」とでも呼ぶべき多くのルートが成長している。調達不安が高まると、多くのプレーヤーが一斉に在庫を増やす「合成の誤謬(ごびゅう)」が生じているのが現状だ。

 もう一つの共通点は政策の迷走だ。「元祖米騒動」が起きる前年、寺内内閣は暴利取締令の公布、米麦の輸出制限、政府米の放出、外米の輸入など米不足に備えていたが米騒動を防止できなかった。

 軍隊の出動で騒動自体は鎮圧したが、米価の高騰は続き、後継の原敬内閣は、米麦の輸出制限を解除するなど流通と価格を市場原理に任せる自由放任策に転換したが、それも効果がなかった。米価が安定するのは、21年に政府が需給を直接調整する米穀法が成立してからだ。

 平成の米騒動は、緊急輸入で年間需要を上回る供給量を確保したが、消費者の国産志向が根強く、タイ米は不人気で翌年に新米が出回るまで国産米の品薄と高騰が続いた。翌年に一転して豊作となり騒動は落ち着いたが、米政策は一貫しなかった。ウルグアイ・ラウンドは、米を関税化の例外とする代わりにミニマムアクセス(最低輸入量)を受け入れる部分開放で決着したが、99年4月に関税化の受け入れに転じた。

 「令和の米騒動」を評価するのは時期尚早だが、内閣総辞職が3つめの共通点とならないようにするためには、政策の一貫性を徹底することが重要だ。政府備蓄米の放出について政策転換の説明は不十分で、米政策は整合性がなく、増産か減産かという根本的な部分で方向性が見えない。

 例えば、いわゆる「水張り要件」の撤廃と飼料用米の増産支援からの撤退は、水田から畑への転換を促す政策だ。一方で、増産を前提とする米の輸出を促進するため、数値目標を設定し助成を拡充する。整合性を欠く米政策は、供給と需要の両側で不安を増幅して米価の乱高下を招くだろう。

(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)


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