3年ほど前のことだが、若手の大工を10人以上も雇っている工務店の社長に人材確保のコツを尋ねたことがある。
自身も大工だという30代の社長は「居心地がよく、伸び伸びと仕事ができる環境を整えることです。仕事を取ることよりも一生懸命そのことを考えます。新しく人を入れることよりも社員がやめないようにする方が大切ですから」と話してくれた。
社長によると、礼儀正しくすることなど「人としてのマナー」は厳しく躾(しつ)けるものの、かつてのような「見て覚えろ」式ではなく、必要な技術は先輩大工が丁寧に教えている。
仕事の内容を大工としてのやりがいを実感できるものにしていることもプラスに働いている。昨今の木造住宅は、柱や梁(はり)の接合部を機械が加工するケースが9割以上占めているが、この工務店は、大工が手作業で木材を刻む昔ながらの技法を大切にしている。
それまでに途中退社があったのは、オーストラリア出身の大工が自国で開業するために帰国した1件だけだと社長は胸を張った。
林業界では、国の新規雇用促進施策が20年ほど前から講じられている。その効果で毎年3千人以上が林業に就業しているが、途中でやめてしまう人も非常に多い。その中には林業界で働くこと自体をあきらめて他産業に転職する人もいるが、別の林業会社や森林組合に移る人も少なからずいる。
就職先や転職先として人気を集めている林業会社を取材すると、完全フレックス制を導入し、暑さの厳しい真夏には、まだ涼しい夜明け直後くらいから働き始め、昼くらいには上がれるようにしたりと、働きやすい職場づくりに腐心していた。
逆に人の入れ替わりが激しい職場では、チェーンソーなどの道具や安全装備などの維持管理に従業員が自腹を切らなければならなかったり、改革案を提案しても経営陣から耳を貸してもらえなかったりと、働き続ける意欲がそがれるような実態がある。最近、転職を決意したというある森林組合の職員から相談を受けたが、「われわれの声が全然届かないんです」とこぼしていた。
新規に人を採用することにも、もちろん力を入れる必要はあるが、働きやすい職場をつくらなければ長く働いてはもらえない。経営層の意識改革が求められる。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.24からの転載】