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ホンモロコの復活  佐々木ひろこ フードジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

 日本最大の湖、琵琶湖を擁する滋賀には、地域特有の魚食文化が根付いている。

 ニゴロブナの塩漬けと米を合わせて発酵させる「ふなずし」、スジエビを大豆と一緒に甘辛く煮る「えび豆」、コイ科の魚ハスに玉味噌を塗って焼き上げる「はす魚田(ぎょでん)」、ビワマスの炊き込みご飯「あめのいおご飯」など、淡水魚を使った料理のラインナップは、他地域に類を見ない多様さだ。その背景には、形成後440万年というこの古代湖に、前出のニゴロブナやハスをはじめとする多種多様な固有種が生息してきたことも大きい。

 近年、それらの多くが環境悪化などを背景に資源減少、種によっては絶滅危機にあることは人づてに聞いていた。種はもちろん食文化の未来を考え、心を痛めていたところ、最近ひとつの希望に出会ったのでご紹介したい。水産資源管理のすばらしい成功例、ホンモロコの資源回復だ。

 成魚でも体長10センチの小型淡水魚。身の繊細な味わいが「コイ科で最も美味」とも評されるホンモロコは、長く料理店や食品加工業で重宝され、滋賀や京都の魚食文化を支えてきた魚の一つだ。1970年代には400トン近く取れていたものの、95年前後を境に漁獲量が急減。2004年には5トンに落ち込み、「幻の魚」となってしまう。

 実はこのような話は日本各地にあり、対処できないまま資源減少が進むことも多いのだが、ホンモロコの場合は違った。滋賀県水産試験場を中心に、県庁関係者や漁業者などが一丸となって、ホンモロコの資源回復に向けて立ち上がったのだ。

 丁寧な資源調査・評価のうえ、00年から行ったのが「種を増やす」、つまり稚魚や発眼卵の放流だ。11年には「育つ環境を整える」ため、外来魚の駆除や水草の刈り取りを始める。12年には産卵場所で1カ月の禁漁を実施し「産卵を護(まも)り」、16年には漁業者が自主的に産卵期の禁漁期間を2カ月に延長、区域も琵琶湖全域へと拡大した。

 このような継続的な取り組みの結果、ホンモロコの資源量は14年から回復。21年からは稚魚放流も中止し、自然のサイクルに任せた大幅な資源増加が実現できているという。

 地域の水産資源管理は通常、各都道府県の水産課や水産試験場が担っている。滋賀県の皆様の情熱と長年にわたるご努力に、心からの敬意を表したい。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 2からの転載】


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