人生の最終段階における医療やケアについて考える「人生会議」を知ってもらおうというイベントが、「いいみとり・みとられ」の日である11月30日、東京・渋谷で開かれた。厚生労働省が主催した「自分らしく生き抜くヒント~『人生会議』はじめてみませんか?~」で、事前に申し込んだ約100人が参加。トークセッションではタレントで俳優、エッセイストの青木さやかさんが、母親をみとった経験を紹介し「自分自身とも友達とも人生会議をやりたい」と述べた。
「よく知っている」5.9%
人生会議は、意思表示ができない危篤状態になったときなどに備え、自分がどんな医療やケアを受けたいか、あらかじめ家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有しておく取り組み(ACP=アドバンス・ケア・プランニング)のこと。厚労省は2018年に「人生会議」という愛称を決め、普及を図っている。
初めに厚労省の中西浩之外来・在宅医療対策室長が「22年度の調査では、人生会議についてよく知っているという国民は、わずか5.9%だった。人生会議の重要性やポイントについて知り、最期まで自分らしく生き抜く環境の実現につなげていただきたい」とあいさつした。
家族、周囲のためにも
続いて筑波大医学医療系の浜野淳講師が基調講演し「命の危険が迫った状態になると、7、8割の人は治療やケアについて自分で考え人に伝えることはできなくなる」「もしものときを話し合っておくと、決断をする家族が『あれで良かったのか』と後悔をしなくて済む。自分のためだけでなく、家族や周りの人のためになる」と、人生会議の意義を解説した。
人生の終わりを見越して財産整理や葬儀などについて自分で準備する「終活」との最大の違いは「人生会議は、自分一人ではなく家族やかかりつけの医師、看護師などと一緒に話し合っていくこと」と説明。具体的な進め方としては「自分の意思や価値観を理解してくれる人を選び『もしものときには自分の意思を推定してほしい』とお願いする」ことから始めることを勧めた。
自分と向き合う
続いて看護師で東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さん(全国訪問看護事業協会常務理事)と、医療ソーシャルワーカーで在宅での緩和ケアに取り組む清澄ケアクリニック在宅療養支援室長の山岡裕美さんが登壇した。
人生に影響を与えるような病気の人と接することが多いという中島さんは「死はタブー視されるが、決して縁起が悪いということではなく、よりポジティブに自分の人生を最後まで生きるために話し合う、というスタンスが大事」「気持ちは変わって当たり前なので、話し合いは繰り返しやり、構えずに日常会話の中で持っていくのがコツ」と、実践する際のポイントを紹介した。
医療従事者と患者・家族を橋渡しする立場の山岡さんは「誰かと話し合う前に、まず自分自身と向き合い、何を大事にしているのか、どう過ごしたいのだろうと、自分と対話をすることから始めてみるのがいいのでは」と述べ、その上で「家族、親類、友人、職場の人など。第三者的な立場では、かかりつけ医や仲のいい看護師」と話し合うようアドバイスした。
いつから始めるべきかについては「今晩でも明日でも。年齢にかかわらず何歳からでも」(中島さん)、「年末が近づいているので実家に帰ったときにでも」(山岡さん)と、気軽に取り組むよう求めた。
近い人を助ける喜び
トークセッションには青木さやかさんも参加。人生会議について「全く知らなかった」と言い、7年前に他界した母親がホスピスに入るときに、折り合いの悪かった母を嫌う自分の思いとまず向き合い、他界する前の母と向き合った。「それが私の初の人生会議だったのかも」と振り返った。ホスピスでは看護師から、母の自分に対する思いを教えてもらい「この人は私のことを大事に思っているんだと、体の中に入ってきた」と紹介した。
これに関して浜野さんは「父母の気持ちに気付き、それをどうしようかと考えながら人生を歩んできた。自分らしく生きることをかなえるために、自身の気持ちを言語化したのが、人生会議のメリットで、今の生活につながっているのではないか」とコメント。
青木さんは、自分が肺がんになったことを小学生だった娘に黙っていたことにも触れ「娘が傷つくと思い込んでいたが、ネットで知った娘に『何で教えてくれなかったの?』と言われた。言わない方がいいという固定観念をなくしてもいいのかも、というヒントをもらった」と語り「人生会議を自分自身とも、仲のいい友達ともやっていきたい。いざというときに近い人が助けられるというのは、喜びだと思うから」と締めくくった。