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シンポジウム「地域からジェンダー平等を2024 ~都道府県版ジェンダー・ギャップ指数をてこに」

「教育」をテーマに地域の課題から日本のジェンダー平等を考える 共同通信社主催でシンポジウム

 ジェンダー・ギャップ(男女格差)の解消に向けた対策が進まぬ日本。スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム(WEF)」が6月に発表した「男女格差報告」で、日本は146カ国中118位。昨年の125位から7つ順位を上げたものの、下位から抜け出せない状態が続いている。こうした状況について、国内の地域が抱える課題から考えていこうと、共同通信社主催のシンポジウム「地域からジェンダー平等を2024 ~都道府県版ジェンダー・ギャップ指数をてこに」が10月31日、東京都内で開催された。

 「地域からジェンダー平等研究会」共催、後援に、内閣府男女共同参画局・文部科学省・全国知事会。協賛に、アートネイチャー・井村屋グループ・キッコーマン・共栄火災海上保険・東京農業大学。

■ジェンダー平等への糸口を探る。今年のテーマは「教育」

 国内の地域の“男女平等の度合い”がどれぐらい進んでいるのかを可視化した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」。「世界経済フォーラム」による男女平等度の指標「ジェンダー・ギャップ指数」と同じ手法で統計処理し、国内地域の男女平等の度合いを表している。上智大法学部の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が、2022年春に初めて公開した。この「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」をもとに、国内のジェンダー平等へのアプローチを議論するシンポジウム「地域からジェンダー平等を」は、一昨年は「政治」「行政」、昨年は「経済」がテーマ。今年は「教育」をテーマに開催された。

 今回の登壇者は、Gender Action Platform 理事の大崎麻子氏、九州大学 男女共同参画推進室 教授の河野銀子氏、「山田進太郎D&I財団」常務理事COOの石倉秀明氏、「デリカウイング株式会社」管理本部経営企画部教育担当室長の細川志織氏、「#Your Choice Project」代表/co-founderの川崎莉音氏。モデレーターを、共同通信社 編集局次長の山脇絵里子氏が務めた。

■女性は二重の格差を受けている

 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数の監修者である三浦氏は、研究でアメリカ在任中のため欠席したが、冒頭に三浦氏からのビデオメッセージが紹介された。三浦氏は、「自分が住む地域と他地域を比較して課題を洗い出し、取り組みの成果がどのように出ているかを経年で見ていくために、ぜひこのツールを活用してほしい」と話した。また、「教育のジェンダーギャップを考える際、“地域”と“男女”という二重の格差は放置されるべきではなく、公的に支援されるべき。今何をすべきか、何ができるのかを考えながら今日のフォーラムに参加していただきたい」とあいさつした。

 冒頭、山脇氏は、四年制大学進学率において東京が突出していること、大半の都道府県で男性より女性が低いことをデータで示し、「四年制大学が全てというわけではないが、なぜほぼ全ての都道府県で女性の進学率が低いのか」と問題提起をした。

都道府県版ジェンダー・ギャップ指数の監修者である三浦氏によるビデオメッセージがスクリーンに映し出された

■日本の現状はアメリカの1970年代

 河野氏は、戦後日本の女性の大学進学率は着実に上昇し、2018年に50%を超えたが、依然として女子学生割合が50%以下であるのは、アメリカの1970年代後半の状況と指摘。アメリカでは1980年前後に、EU平均では90年代には学部生の過半数が女性に、2010年前後には韓国や中国も学部だけでなく修士まで女性割合の方が高くなっていることなどをデータで示した。

 男女を問わず大学進学率の差が生じる要因として、学力、関心・意欲、将来展望など「個人に内在する要因」、家計、親の学歴・職業など「家庭等に関する要因」、そして、地域の産業構造、高校の教育課程(学科)、大学収容力等の「構造的要因」を挙げ、居住地により大学の選択に大きな幅があることを解説した。

モデレーターの共同通信社 編集局次長 山脇絵里子氏(左)、九州大学 男女共同参画推進室 教授の河野銀子氏

 

■女性が選択肢を広げ、自分で意思決定できるように

 そもそも、なぜ女性の大学進学を重要と考えるのか――。大崎氏は、「教育の目的は、一人一人の女性・女の子が、人生の選択肢を広げ、自分の意思に従ってあらゆる決断をし、男性と対等に意思決定する“力”をつけること」と解説。2019年の国際的な調査において「リーダーとしての能力に自信がある」と答えた女性が日本は3割に満たなかったことにも触れ、根強いジェンダーステレオタイプの影響を指摘した。

Gender Action Platform理事の大崎麻子氏(左)、現役大学生で「#Your Choice Project」代表/co-founderの川崎莉音氏

 

 石倉氏は、山田進太郎D&I財団の取り組みについて紹介した。同財団は、STEM (科学・技術・工学・数学) 分野でのジェンダー問題を解決するために2021年に設立。ジェンダー・人種・年齢・宗教などに関わらず、誰もが自身の能力を最大限に発揮できる社会の実現を目指して活動している。高校生女子の理系選択を応援する抽選型・返済不要の奨学助成制度、中高生女子がSTEM領域の仕事や学生生活を体験できるツアーなどを展開している。

 細川氏は、外資系企業勤務などを経て出身地の広島県にUターン。結婚・出産を経て大学の非常勤講師、通訳、女性活躍支援などさまざまな仕事・活動に取り組み、経験やスキルを地元に還元してきた。格差解消のためには、「女性比率の物理的な上昇」「トップの傾聴力/柔軟性とアクションへのコミット」「仲間づくり・コミュニティづくり」「戻ってきたい場所づくり」などが鍵となるのではないかと話した。

 

山田進太郎D&I財団常務理事COOの石倉秀明氏(左)、デリカウイング株式会社 管理本部経営企画部教育担当室長の細川志織氏

 

■現役女子大学生もディスカッションに参加

 後半のディスカッション冒頭では、「#Your Choice Project」代表/co-founderで現役大学生の川崎莉音氏が紹介された。川崎氏は、『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』(光文社新書)を共著で出版している。川崎氏は、「資格取得重視傾向」「安全志向・浪人回避傾向」「保護者からの影響」「自己評価の低さ」「東京への忌避感」などから、「地方女子学生は難関大学に進むことにメリットを感じていない」という調査結果を紹介。他にも女性の選択を支援するために団体として取り組んでいる調査活動・政策提言活動などを紹介した。川崎氏は、「データを示すことで、地方の女性の学生たちが直面しているジェンダーギャップの問題が、思っていたより大きいことに気付いてくれる人もいる。さまざまな大人の方を巻き込んで話していきたい」と話した。

 河野氏は、「大学もダイバーシティ宣言をしたり、ダイバーシティ推進室の整備などに取り組み始めたりしている。高校と連携したプログラムなどにも取り組んでいる。地方から難関大学を目指す道を広げることはもちろん、一人一人が、本当に自分が関心を持てることを見つけて取り組んでいくことが大切だという考え方も広まってほしい」との視点を示した。これを受けて大崎氏は、「それぞれが持っている力をどれだけ生かせるか。性別役割を前提とした社会のシステムを変えていきたい」と話した。

 教育現場で女性管理職の存在が増える意義は大きい。管理職の女性比率を高めるために河野氏は、「育休復帰後のしっかりとしたサポート体制や、ミドルエイジからの育成体制など、どうやってチャンスを提供し、育てていくかが重要」と指摘した。山脇氏は、「単線型ではなく複線型、多様な経験をした人がキャリアを高めていけるようなシステムが求められているのではないか」と応じた。

現役女子大学生の川崎氏もディスカッションに参加(右から3人目)

 

■“戻ってきたい”と思える地域にするために

 ジェンダー・ギャップ指数改善を目指しながら、“戻ってきたい”と思える地域にするために何ができるか。川崎さんは「国の担当者の方と話す中でも、女の子が大学で地方から出て行ってしまうと戻ってこないからね、と言われることがある。各自治体が、戻ってきたい地域づくりに取り組んでほしい」と話した。

 細川氏は、「いわゆる“活躍”だけでなく、いろいろな生き方を提言できないだろうか。『もっと呼吸しやすい場所で過ごしたいから地方に帰る』でもいいのではないか。“未来を担う若者たちに”というフレーズがよくいわれるが、必ずしも“リーダー”でなくても、多様なモデルが見える場所を作りたい。Uターン、Iターンにチャンスがたくさんあること、成功事例などをメディアにも宣伝していただきたい」と話した。

 山脇氏は、「未来の子供たちに、少しでも平等な生きやすい社会を残したいとの思いから、都道府県版ギャップ指数作成の取り組みを始めた。この先細りする社会の中で、一人一人が能力を発揮できない社会は残念だ。自治体や企業学校、地元メディアなどが立ち上がり、地域のジェンダー平等を目指すアクションが広まってほしい。ぜひ、今日聞いたことを職場や家庭で話し、何ができるかを周りの人たちと考えてほしい」と呼びかけ、締めくくった。

 シンポジウムのアーカイブはYouTubeで見ることができる。

 

 


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