大河ドラマ「光る君へ」の好奇心あふれるさっそうとした現代版・紫式部なら、千年後の乗り物新幹線に乗っても驚からずに面白がり、車窓越しの実景を和歌に詠んでいるだろうか。式部が一時暮らした福井県内へ延びる北陸新幹線の3月開業を前に、そんな光景が浮かぶ。
その北陸新幹線の試乗会が2月3日開かれ、抽選で当選した一般客を乗せ、開業前の金沢―敦賀間の延伸区間(約125キロ)を一足早く駆け抜けた。福井県内の新幹線駅は芦原温泉駅(あわら市)、福井駅(福井市)、越前たけふ駅(越前市)、敦賀駅(敦賀市)の4つ。越前たけふ駅の西5キロほどに式部が同市に1年余り暮らしたことを記念する式部像が立つ。
記念像の表情は威厳たっぷり。でもなんとなく「光る君へ」の式部にある理知的な陽気さも感じさせる。平安貴族の男社会にひるまない「光る君へ」での文才豊かな博識の式部像は、現代日本の働く若い女性たちの共感を呼ぶだろう。北陸新幹線延伸で近くなった首都園から、式部ゆかりの越前市を訪ねる若い女性はきっと増えるに違いない。
大河で注目が集まりそうな越前市に対して、新幹線の「福井駅」のある県庁所在地の福井市も負けてはいない。北陸新幹線が試乗客を乗せて延伸区間を快走した2月3日夕、東京都千代田区有楽町のイタリア料理店「サバティーニ・ディ・フィレンツェ東京店」で、SNSで最新トレンド情報を発信して若い女性の注目を集める、いわゆる「インフルエンサー」といわれる、“現代の紫式部”といってもいいかもしれない影響力のある女性約30人をはじめ関係者約40人を集めて、福井市産の食材を使った特別料理を楽しみながら福井市の魅力をアピールする催しを開いた。
前日2月2日に北陸新幹線延伸区間の試乗を終えた福井市の西行茂市長も会場に駆け付け、福井市に関するクイズを出しながら参加したインフルエンサーたちに福井市の魅力を熱心に訴えた。西行市長は「福井市は食をはじめいろいろな魅力にあふれているのにその魅力がまだまだ知られていない。北陸新幹線延伸という好機を迎え、これからはインフルエンサーのみなさんの力を借りて若い女性たちに福井市の魅力を伝えていきたい。大河の紫式部で盛り上がる越前市とも連携して良い相乗効果を出せると思う。福井県への北陸新幹線延伸は福井全体を盛り上げるチャンスだ」と話した。
料理は、福井県のブランドブリ「ひるが寒ぶり」のオーブン焼きなど魚料理のほか、「若狭牛サーロイン」の溶岩石グリルや「黒龍吟醸豚肩ロース」のロースト、「ふくいポーク」の自家製ロースハムなど、福井特産の肉料理も提供された。
料理に腕を振るったサバティーニ・ディ・フィレンツェ東京店の小柴大輔総料理長は「福井の食材は魚介類をはじめ魅力的な食材が多く、特においしい豚肉の種類の多さにはびっくりした。今度、仲間のシェフと一緒に福井を訪ね、食材の現地調査するつもりです」と語った。
この日は、インフルエンサーをしのぐ発信力を持つ、越前市出身の東京五輪フェンシング団体金メダリスト・見延和靖選手も特別参加した。「福井のよさは来てもらえばわかる。北陸新幹線延伸で首都圏からのアクセスがよくなるこれからは、福井を体験してもらう大きなチャンスだ。僕も微力ながら福井のよさを国内外に発信していきますので、影響力のあるインフルエンサーのみなさんもSNSなどで福井の魅力発信をよろしくお願いします」と呼びかけた。
現役の見延選手は福井市の企業アタゴが製作したオリジナルウェアを着用して出席した。地元福井県を思う気持ちは人一倍強く、福井を活性化するためのアイデアも豊富だ。多くの国際大会で培った海外との交流を生かし、フランス人のフェンシング金メダリストに、700年の歴史を持つ越前市特産の「越前打刃物」の包丁をプレゼントしたこともある。
見延選手の出身地である越前市は2005年10月1日、武生市(たけふし)と今立町(いまだてちょう)が合併して誕生した。式部が暮らしたのは旧武生市で、見延選手の生まれは旧今立町。以前はそれほど式部になじみはなかった見延選手だが、一気に式部への親近感が湧く出来事が起きた。見延選手が、式部のいわゆる「義弟」になったのだ。
というのも、今立町と武生市の合併を記念して、武生市ゆかりの紫式部と今立町生まれの伝承がある剣客・佐々木小次郎の「式部・小次郎結婚式イベント」が05年行われ、同年結婚した見延選手の兄夫婦が小次郎、式部役に選ばれて両市町を代表する両偉人の衣装を身に着け小次郎、式部を演じたからだ。
そんな縁もあって見延選手は式部に親近感を感じており、北陸新幹線延伸に加えて大河「光る君へ」による越前市の盛り上がりにも期待しているという。
式部の“義弟”見延選手と“現代の式部”たち女性インフルエンサーも仲の良い姉弟のように共に手を携えて、北陸新幹線延伸後の福井をもり立てていきそうだ。