今年も短い秋が終わりを迎えていますね。ついこの前まで暖かい陽気でしたが、一気に寒くなり、晩秋というか、冬の始まりを感じる今日この頃です。この季節になると、一日の終わりに入るお風呂が身に染みます。冷え切った足先からお湯に漬かったときのジワジワと温まる感覚は至福のひととき。それが温泉であれば、幸福感も高まり、湯上りもずっとポカポカが続くことでしょう。
今回は栃木県にある「那須塩原温泉郷・塩の湯温泉 柏屋旅館」をご紹介します。こちらのお湯は「塩化物泉」で、保温と保湿力が抜群な温泉です。
栃木県那須塩原市の那須塩原温泉郷は、山あいの箒川(ほうきがわ)沿いに点在する11カ所の温泉地の総称。風情ある温泉街をもつ福渡(ふくわた)温泉や、塩原温泉郷発祥の地で、山奥に数軒の宿がたたずむ元湯温泉など、雰囲気、泉質ともにさまざまな個性の温泉地が集まっています。都心から車で3時間ほどの距離にありますが、温泉郷のすぐそばまで高速道路が通っていることや、新幹線停車駅の那須塩原駅が最寄りのことから、比較的アクセスしやすいのも特徴です。
そんな温泉郷の中で最も静かな環境なのが「塩の湯温泉」。渓谷を望む山道に沿って3軒の旅館が建ち並んでいます。今回ご紹介する「柏屋旅館」もその一つ。温泉地の中で最奥に位置しています。
お風呂は男女別の内湯のほか、貸切露天風呂が7カ所あります(現在6カ所入浴可能)。貸切露天風呂は、宿の建物から外に出て、渓流へ下る木造の階段の各所につくられ、チェックイン時に予約した時間にフロントで鍵を受け取り利用できます。現在は、「雷霆(らいてい)の湯」「桐の湯」「かもしかの湯」「かわせみの湯」「みどりの湯」「雄飛(ゆうひ)の湯」の6カ所に入浴可能。それぞれ湯船の大きさや形、渓谷の眺望ポイントが異なり、宿泊して湯めぐりするのがおすすめです。
そんな貸切露天風呂の中で一番人気なのが、「雷霆(らいてい)の湯」。渓流へ下る階段の一番下にあり、すぐ目の前に川が流れるロケーションです。温泉は薄ウグイス色のにごり湯で、渓谷の自然な色合いとのコントラストが美しい。この景色を独り占めで堪能できるのは、最高の贅沢(ぜいたく)ではないでしょうか。冬は雪見露天を楽しめたり、夜は満天の星を眺められたりと、どの時季や時間帯でも表情を変え、それぞれに味わいがあります。
泉質は、ナトリウム-塩化物泉。56度で湧いている源泉を、加水、加温、循環することなく、湯量調節のみの「完全掛け流し」で各お風呂へ注いでいます。お湯は、金気(かなけ)、硫黄、土の混ざった繊細な香りがほのかに漂い、舐(な)めてみると、ちょうどよい塩加減の土瓶蒸しのような味わいです。ツルツル感と肌に引っかかるようなギシギシ感の同居する感触は、成分の濃厚さをうかがわせます。
塩分の多いこの泉質は、入るとその成分が肌をベールで包み込み、保温と保湿力が抜群。湯上りは芯までしっかり温まり、布団に入ればすぐに熟睡でした。お肌はずっとしっとりしていて化粧水いらず。冷えと乾燥の気になるこれからの季節にうれしい泉質ですね。
国産和牛のステーキ
温泉に宿泊したら食事も楽しみの一つです。「柏屋旅館」では、地元食材をふんだんに使い、季節を感じられるメニューを食べさせてくれます。
この日の夕食は、山菜、国産和牛のステーキ、土瓶蒸し、ミカンなど、山の幸が中心のラインアップ。どれも派手ではないですが、素材のうまさをしっかり感じられる味付けで、お腹も心も満たされました。
寒くなってくると温泉が恋しく感じますね。年末に差しかかり、日々の忙しさが増している方も多いことと思います。そんな時はいつも通り過ごしていても、気が付かないうちに心も体も疲れてしまうもの。日常のお風呂も気持ちいいですが、たまには非日常の温泉へ足を運び、心と体をしっとり温めてあげるのも良いのではないでしょうか。
【那須塩原温泉郷・塩の湯温泉 柏屋旅館】
住所 栃木県那須塩原市塩原364
電話番号 0287-32-2921
【泉質】
ナトリウム-塩化物温泉(低張性 中性 高温泉)/泉温55.8度/pH:6.0/湧出状況:自噴/湧出量:毎分290リットル/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。