2023年10月28日=1,635
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算
▽矛先は家族
「わがまま」。
あなたはこの言葉にどんなイメージをお持ちかな。まあ100人中100人がネガティブに捉えているとお察しする。なぜならば、相手や他人の都合を考えずに、自分がしたいままに振る舞うことを指すものやから。
ところが、である。自ら思うままに行動できることは、当人にとって甚だ楽だ。特に私のごとく心身が弱っている者には。だって自分のことで精いっぱいで、周りに目を向ける余裕などもうないから。
ただしこのわがままの矛先は誰かとなると、やっぱり「家族」を挙げる人がほとんどだ。かく申す私も同様である。例えば居ながらにして、食事の際ならば「皿やお茶を持ってきて」、あるいは何かをメモする時には「ペンや紙を取ってきて」など言われるのは、決まってわが家族である。自分の足で歩ける、手で取れるにもかかわらず。しかしこれは家族を信頼しているがゆえになせる行動なのだ。相手との信頼関係があるからこそ、初めてわがままを言えるのである。
▽医者にも言う
そこで今日は家族ではなく、また気が置けない友人でもなく、医療者をわがままの矛先としたい。がん患者である私にとっては、主治医の話となる。
実は2カ月ほど前、右下の歯茎を痛めた。さらに腫れ上がってきたため、通っている病院の口腔外科を受診した。そして歯の根っこに感染によるうみがたまっている「根尖性(こんせんせい)歯周炎」と診断された。まずは化膿止めと痛み止めの飲み薬が始まり、がん治療の日程をにらみながら抜歯する予定となった。なぜ、がん治療と抜歯が関係あるかというと、抗がん剤治療中は白血球の数も減っていて、緊急治療でなければ時期をずらした方が体への影響が少ないからである。
ここで抜歯の日程だが、口腔外科医からの指定日もあったが自分の希望もあったので、わがままを聞き入れてもらった。さらに飲み薬に対しても自分の言い分を伝えた。もちろん私が医者という立場もあろう。でも同じ働きの薬に複数の種類がある場合、やっぱり過去に効いた実績がある薬を処方してもらうとありがたい。これなら医者でない患者でも言える。ちなみに抜歯は9月26日に受けた。まだまだ痛み継続中。
これらわがままはがんを診てもらっている腫瘍内科の主治医にも波及している。彼にも自分の思いをしっかりと示す。例えば、抗がん剤の副作用の手足(てあし)症候群対策の塗り薬など。さすがに抗がん剤までは要求通りとはいかぬが、副作用との相談でその飲み方を決めている。たとえ標準治療から弱い形となっても、自分の希望を通す。自分のことだから。
▽叫べ、皆の者
とにかく口腔外科医、腫瘍内科医どちらも、私は全幅の信頼を寄せている。だが一方的に彼らの言いなりにはならずに、わが言い分も伝える。いや言うべきだ。己の思いは言葉にしなければ、相手には絶対に伝わらないから。わがままはわが言い分である。自己決定に不可欠と言える。つまりネガティブな迷惑行動ではなく、ポジティブな生命行動なのである。従って皆の者、大いにわがままを叫べ!
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(発信中、フェイスブックおよびYouTubeチャンネル「足し算命・大橋洋平の間」)
おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)、2022年11月「緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。
このコーナーではがん闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。