コナミの人気デジタルゲーム「桃太郎電鉄」(桃鉄)は教育に役立つのか―。同ゲームの「教育版」を小中学校などの教育機関に無償提供するコナミデジタルエンタテインメント(東京都中央区)と東京大大学院・藤本徹准教授の研究室が3月23日、東京都文京区の東京大情報学環・福武ホールで開かれた教育イベントで、同ゲームの教育効果に関する両者の共同研究の中間の成果を発表した。それによると「桃鉄教育版を活用したことのある教師の多くは、子どもたちの学習意欲を桃鉄は高めたと認識していることが分かった」(藤本徹准教授)という。
このイベント「エデュテイメント祭り」(東京大・藤本徹研究室など主催)には授業へのデジタルゲームの活用に関心のある小学校教諭ら70人余りが参加。藤本徹准教授の研究報告のほか、学習用に改良した桃鉄教育版の制作に協力した立命館小学校の正頭英和教諭や桃鉄教育版を開発したコナミデジタルエンタテイメントシニアプロデューサーの岡村憲明氏の講演、青森県と名古屋市の小学校教諭2人による桃鉄教育版を使った授業の実践報告、文科省初等中等教育局教育課程課長の武藤久慶氏のオンライン特別講演などが行われた。

「ゲーム学習論」を長年研究する藤本准教授は、自身の研究室とコナミデジタルエンタテインメントが共同で昨春から始めた「桃鉄教育版の教育的価値の評価」に関する研究の現時点での研究成果として、教諭対象のアンケートやヒアリングなどの結果などに触れながら説明した。
昨年7~8月にオンラインで実施した桃鉄教育版利用教諭対象のアンケート(有効回答数218件)の説明では、利用者の最多は小学校教諭で43・6%を占めた。次いで中学校教諭34.9%、高校教諭8.7%の順で続いた。また利用科目は「社会・地理公民」が84.8%で最も多く、「総合・生活」が17.2%で続いた。利用状況は59.6%が「不定期に使っている」と回答。利用動機が「生徒の関心を引くため」(「そう思う」「とてもそう思う」の合計で91.4%)「教材として魅力的に感じたため」(同93.3%)の2つの回答が共に9割を超えた。

桃鉄教育版を利用して認識した「教育面での効果」については、98%が「学習意欲を高める」(「とても効果的である」「効果的である」「やや効果がある」の合計)と回答した。そのほか「学習に関する有益な情報を提供する」(同97・4%)「以前に習った内容を補強したり、習得できるようにする」(同94.7%)「新しい内容を教える」(同94.7%)の3点に関してもいずれも9割が効果を認めた。
これらのアンケート結果を踏まえ、藤本准教授は「調査数が少ないので、断定的なことは言えないが、少なくとも教員の認識からは、桃鉄教育版に教育効果があることが認められた」と指摘。ただ「桃鉄教育版を利用して子どもたちの学習意欲を高めた成功事例の情報共有が不十分であり、好事例を共有するためのコミュニティーが必要。またゲームの教育効果を研究する人は少ないので、少ない研究者同士の連携も大切だ」と諸課題を提起。2026年度も継続する共同研究ではこれらの教育者・研究者のコミュニティーづくりも研究テーマにする、と述べた。
また「桃鉄教育版以外にも教育に活用できるデジタルゲームはある」として、この点の研究も進めるとした。

文科省の武藤久慶氏は、さまざまな教育に関する国際比較データや識者の未来予測などを紹介しながら、いまの子どもたちは人口減少、グローバル化、デジタル化、生成人工知能(AI)の進化など、変化の激しい環境の中で成長する世代であり、優れた教師たちがこれまで積み重ねてきた学校教育の素晴らしい成果を生かしつつも、現代の時代環境に適した教育の在り方を考えていかなければならない、と指摘。変化の激しい社会で不可欠なものである「主体的に学ぶこと」「学び続ける力」を子どもたちが身に付けるにはどういう教育が必要なのか、また国際比較で「自分の考えを持つ子ども」が少ない日本の子どもたちの「主権者・当事者意識の低さ」を学校教育ではどう改善していくのか、といくつかの課題を提起した。

その上で子どもたちの育成すべき資質・能力を十分意識した実践を行い、情報通信技術(ICT)ツールを使い子どもたちの「深い学び」につなげる試みの必要性を強調。その一つとして、「デジタルゲームの教育への活用は是か非か」という単純な二項対立に陥らずに、子どもたちの学習意欲を高めるゲームをうまく活用しながら日本の教師が得意とするリアル授業の良さとバランスよく組み合わせて、いまの子どもたちに必要な力を育てていく必要がある、とした。
コナミデジタルエンタテイメントシニアプロデューサーの岡村憲明氏は桃鉄教育版に追加した新機能「マイ桃鉄」などを紹介。この機能を使うと、子どもたちが桃鉄をさらに楽しめるよう地元の代表的な施設(観光施設など)を桃鉄に登場させることができる。その際、新たに登場させるその施設の不動産価格と収益率を決めなければならず、岡村氏は「同価格・収益率決定のための聞き取り調査や議論を通じて、子どもたちの学習意欲をさらに高めることができる」と説明した。
この新機能の効果に関しては、子どもたちが新機能を使い地元の施設を登場させる授業を実践した、青森県の小学校教諭・川村祐輝氏と名古屋市の小学校教諭・青木洸司氏の2人が報告。2人は、子どもたちが「授業に前のめりになった」「達成感を強く感じていた」「自主的に調べる力が付いた」など、子どもたちの著しい変化を、授業の様子を映した動画を見せながら説明した。

また岡村氏は桃鉄教育版の無償提供の対象を4月10日から「フリースクールなどのオルタナティブスクール(現在の公教育とは異なる、独自の教育理念・方針により運営されている学校)やインタナショナルスクールにも拡大する」と発表した。
桃鉄は1988年に登場した「日本全国を巡って物件を買い、その資産総額を競う」人気ゲーム。桃鉄教育版は2023年から学校教育機関に無償提供している。この日の岡村氏の発表では、学校教育機関への無償提供件数は1万2300件。うち小学校が約6割を占めている、という。