いよいよ年末ですね。今年もあっという間に終わってしまった感じがしますが、この1年の疲れは、温泉でサッパリと流したいものです。
いわずと知れた天下の名湯、群馬県の草津温泉。江戸時代の温泉番付では、東の最上位に格付けされ、現在でもさまざまな温泉ランキングで1位争いをする温泉地です。風情ある温泉街の魅力もさることながら、お湯そのものの良さも、人気を支える要素ではないでしょうか。草津の源泉は、多くの旅館や施設に引湯される「湯畑源泉」や「万代鉱源泉」などもあれば、数軒の施設でしか出会えない希少な源泉もあります。今回は、そんな珍しい源泉を引くお宿「飯島館」をご紹介します。
温泉街のシンボル「湯畑」から、徒歩3分。バスターミナルへと続く、少し急な坂を登る途中の道を1本それて、路地の奥まで歩いていくと、「飯島館」がたたずんでいます。温泉街の中心エリアにある宿ですが、路地に入ることもあり、人通りの少ない静かな環境の立地です。
白を基調した外観は、素朴でレトロな印象。館内も昭和を感じる趣で、なんだか安心感があります。ロビーでは、インコのピーちゃんがにぎやかに出迎えてくれます。
お風呂は、男女別の内湯と、2カ所の貸切風呂の計3カ所。露天風呂はありませんが、草津のお湯とじっくり向き合うには最適な環境ですね。それぞれ、3~4人が入れる湯船が一つずつのシンプルなつくりです。
貸し切り風呂は事前予約制ではなく、空いていればその都度入浴できるシステム。内鍵をかけて、利用します。貸し切りなので、家族や友人、パートナーと一緒に、他のお客様を気にせずに、ゆっくりと過ごすことができます。
飯島館が引湯するのは、メジャー源泉の「湯畑源泉」と、希少源泉である「わたの湯源泉」の二つ。男女別内湯と、貸し切り風呂の1カ所は「湯畑源泉」が注がれ、もう1カ所の貸し切り風呂に「わたの湯源泉」が使用されています。
泉質名は、どちらの源泉も同じ「酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉(硫化水素型)」。清掃後のお湯張りの際に加水しているそうですが、基本的には加水・加温・循環・消毒のない「完全掛け流し」で湯船を満たしています。
お湯は、どちらの源泉も甘く芳ばしい硫黄と、レモンのようなシトラス感のあるフレッシュな香りが漂います。舐(な)めると、強烈に酸っぱく、その中に自然な甘さを感じ、レモネードのような味わいでした。
貸し切り風呂で堪能できる「わたの湯源泉」は、湯畑源泉と比べ、浴感がやさしくまろやかな印象。白い湯の花がヒラヒラと舞い、湯船の下に沈殿するほど大量で、薄ミルキー色に濁っていました。飯島館の近くに湧くこの源泉は、数軒の旅館でしか味わえない大変貴重なもの。ほかの源泉に比べ、真綿に包まれるようなソフトな湯心地を感じられることから、「わたの湯」と名付けられたのだそうです。
お風呂は、3カ所とも事前に連絡すれば「日帰り入浴」でも利用可能です。しかし、何度もこのお湯を楽しむなら、やはり宿泊がおすすめ。そうなると、宿の食事も楽しみの一つです。
飯島館では、地元の旬の食材を使用した料理を提供してくれます。この日の夕食は、「いなか豚」の鍋もの、鮭の天ぷら、とんかつ、から揚げなどのラインアップ。どのメニューも派手さはないですが、家庭的な味付けでとてもおいしく、ボリュームもあり、大満足でした。
ちなみに、この「いなか豚」は、群馬県産の新ブランド豚とのことで、取扱店舗が少ない希少な食材なのだそうです。
2023年に蓄積した疲れは、この年末年始で、温泉に入り洗い流したいものです。草津の希少源泉「わたの湯」は、酸性の刺激的なお湯でありながら、真綿に包まれるようなやさしい浴感で、湯上りは癒やされつつもスッキリとできることでしょう。今年も1年間お疲れ様でした。
【草津温泉 飯島館】
住所 群馬県吾妻郡草津町大字草津447-8
電話番号 0279-88-3457
【泉質】
<湯畑源泉>
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉[硫化水素型](低張性 酸性 高温泉)/泉温53.9度/pH:2.0/湧出状況:自然湧出/湧出量:測定せず/加水:なし(湯張時のみあり)/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
<わたの湯源泉>
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉[硫化水素型](低張性 酸性 高温泉)/泉温51.1度/pH:2.1/湧出状況:自然湧出/湧出量:測定せず/加水:なし(湯張時のみあり)/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。