b.[ビードット]
日本の練りゴマ(右)に対してタヒニはさっぱりとした風味で色も薄い。通販サイトなどで購入できる

広がるゴマの世界 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」

 日本の食生活に深く根ざしているが自給率が極端に低い食品、それはゴマである。なんと99・9%以上を輸入に頼り、国産は0・03%程度。先日NHKで日本向けに機械を使わず無農薬で高品質のゴマを育てる南米パラグアイの農家が特集され、私たちはゴマを通じて世界とつながっていることを実感した。

 もともとの野生種は黒ゴマだったというが、今日では黒・白・金の3品種に大きく分かれ、世界には3千以上の栽培品種がある。黒ゴマはコク、白ゴマは香り、金ゴマは甘みに特徴があるが、黒ゴマの油分がやや少なく金ゴマが多い以外、成分と栄養素は変わらない。

 原産地はアフリカのサバンナ地帯とされ、縄文時代後期に黒ゴマが九州に上陸し、だいぶ遅れて白ゴマがやってきた。栽培に適するのは暑く乾燥して水はけのよい土地だが、次第に耐寒性を身に付けて江戸時代には東北地方でも栽培できるようになった。

 ゴマの食文化が栄えるきっかけは、仏教伝来だった。肉食が禁じられ、油分を約50%、たんぱく質を約20%も含み、ビタミンEと鉄分も豊富なゴマが禅宗の寺の精進料理に欠かせない材料になった。曹洞宗大本山の永平寺では、ゴマ豆腐を作ることが今も毎日の修行だ。生産量が増えて次第に庶民の食卓に普及し、あえもの、天ぷらの揚げ油をはじめ多くの伝統食に活用された。

 ゴマは育てるのが容易で4カ月足らずで収穫できるが、刈り取りと乾燥、さやから種子を叩き落として選別する工程のほとんどが手作業。膨大な手間がかかることから、国内栽培は高度経済成長期に衰退した。

 古代中国では不老長寿の妙薬と呼ばれ、体に良いことは昔から知られていたが、科学的な研究が進んで老化制御やがん予防、アルコール代謝促進などの働きがあることが解明されたのは、日本がバブル景気に酔っていた頃だった。

 ゴマに含まれるセサミンには生活習慣病や老化の原因になる活性酸素を取り除く働きがあることが紹介され、ゴマブームが始まったのが1998年。以来、需要はうなぎ上りでアフリカや中南米を中心に、多くの国々から輸入している。ゴマドレッシングとゴマだれが家庭料理の定番になった。

 東アジアでは、焙煎ゴマ特有の香ばしさと風味を生かす料理が多い。炒り加減は中国、韓国、日本で微妙に違い、韓国は焙煎温度が高めで色も香りも濃厚。その場で炒って手搾りしてくれる油屋が今も健在だ。日本の焙煎技術は世界のトップクラスで、同じゴマ油や練りゴマでも浅炒りから深炒りまで選択肢が広い。

 アフリカから西アジアでは、炒らずに生のまま利用するゴマ食文化が発達した。代表的なのが白ゴマペーストの「タヒニ」である。日本の練りゴマより格段にさっぱりしているが、焙煎香がないのでゴマ自体の味が楽しめ、非加熱のためより栄養豊富とされる。

 タヒニはそのままパンに塗るとおいしく、レモン汁と塩で調味するだけで万能ソースになり、ひと味違うゴマドレッシングができる。新しいゴマの世界、開いてみてはいかが。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.37からの転載】

はたなか・みおこ 専門は近現代の流行食。料理本の編集も。「ご家庭の味150年クロニクル」(紀伊國屋書店)を9月に出版。


関連記事

スタートアップ

スポーツ

ビジネス

政治・国際

食・農・地域

株式会社共同通信社