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書評 『食権力の現代史』 飢餓の本質を明かす 共同通信アグリラボ

 バレンタインデーが近づき、チョコレート売り場がにぎやかだ。しかし原料のカカオの生産現場を想像できる人は、それほど多くないだろう。ナチスの農業政策を研究してきた著者の藤原辰史京大教授は、カカオが途上国の子供たちの労働によって生産されていることと、第2次世界大戦中にドイツがスラヴ人の強制労働によって食料を確保したことの間に相似をみる。

 カカオだけではない。砂糖、パームヤシ、バナナ、コーヒー、茶など農産物の単作化(モノカルチャー)が徹底している途上国は飢餓に弱い。飢餓は自然現象ではなく、ほとんどはモノカルチャーの導入を含めた人為だ。

 第一次世界大戦で、ドイツは英国による海上封鎖で食料の調達ができなくなり敗北した。厳しい飢餓の経験からナチスは「全面的な戦争とは食料収奪戦争であり、飢餓耐久戦争である」と学ぶ。中東欧に入植し、食料を奪い、他民族の人口を減らすことで食料を確保する戦略の帰結が大虐殺だった。

 この動きを著者は「ドイツという国がひとつの『飢餓施設』へと変貌していく」と表現する。虐殺は強制収容所の中だけで起きたのではないということだ。それどころか「飢餓施設」は国境を越え、規模を拡大し、より洗練され、暴力としては見えにくくなり、現在も先進経済国を生きる私たちのほんどが加害者として関わっている。イスラエルによるパレスチナの農地や水源の収奪、ガザ地区での飢餓はその一端に過ぎない。

 歴史家である著者は、ナチスの徹底した「飢餓計画」から現代のグローバル化した飢餓まで、政策に関わったリーダー、文化人、穀物商社、それらに抗った人たちを克明に紹介することで、食料や食料生産に必須のものを一局に集中し、それらを根拠に人間や自然を統治、管理する力の束、すなわち「食権力」の構造を描き出す。本書は人文書院から発行された。税込み2970円

。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)


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