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少子化で変化する大学の役割  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」

 先日、大学入学共通テストが実施されました。志願者数は50万人に少し欠ける49万5千人でした。現在の18歳人口はおおむね100万人であることから、2人に1人が志願したことになります。前年より微増とのことですが、センター試験と名乗っていた頃には志願者が60万人を超えていた時代もありました。少子化と大学入試制度の多様化により、志願者数の先細りを回避することは難しいと考えられます。

 とりわけ少子化の影響は無視できません。筆者の推計によれば、2024年の日本人の出生数は70万人を割り込み68万人台となったもようです。22年に80万人を割り込んだばかりでしたが、下げ止まる様子はみられず、減少のペースは加速しています。

 減少率でみると、15年から23年は年平均4.0%でしたが、24年は前年比5.8%と減勢が加速しました。推計通りとなれば、国立社会保障・人口問題研究所による将来人口推計の中位推計で示された24年の出生数に比べて7万人の下振れとなり、低位推計の66万8千人に迫る勢いです。

 1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する合計特殊出生率も、24年は過去最低だった前年を大きく下回る1.15程度まで下がる見通しです。このように、出生数の減少、出生率の低下に歯止めがかからない状況です。

 18年後には、18歳人口が現在の共通テストの志願者数に近い水準まで減少することが見えている状況を踏まえれば、大学入学制度を大きく見直す必要性は明白です。加えて、大学そのものの在り方を根底から見直すことに迫られる時期もそう遠い未来ではないでしょう。

 すでに一部の大学では深刻な定員割れを起こしているとされ、大学の廃止を含む整理統合は不可避であるとの見方があります。一方で、先進諸国の中でわが国の大学進学率は必ずしも高いものではないとの見地から、進学率を引き上げ、国民の教育水準をさらに高めていくべきとする意見もあります。

 筆者は、全ての大学・学部を存続させることは難しいということは理解しつつも、大学で学ぶ人の割合はもっと増やしていくべきだと考えています。19年以降、わが国で最も雇用が増えたのは、コロナ禍の影響もあり急増した「医療、福祉」業界のほかでは、ほぼ「情報通信産業」に集中しているのが現状です。産業界からは、理系人材の育成が求められており、あらゆる産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、AI(人工知能)の活用が望まれる中、理系的思考の重要性が高まっています。

 こうした状況を踏まえ、STEM教育の重要性、すなわち理系人材の育成がわが国喫緊の課題とされながら、この10年間、大学の入学者数の文理比に変化はみられません。人材育成の場として、大学が産業界のニーズに応えられていない状況です。

 今後、大学の受け入れ枠が余剰になっていく段階で、大学定員の理系シフトを明確にしていくべきではないでしょうか。たとえ少子化が進んだとしても、わが国の経済発展を促す上で、産業界が求める人材を育成することは、大学など高等教育機関の重要な役割と言えましょう。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.6からの転載】


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