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定番の「鶏そば醤油」990円。初ラーメンの外国人はもちろん日本人にもおいしい味にこだわる

ハラールラーメン  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」

 正月に浅草を歩き、至る所にラーメン店が新規開店しているのに驚いた。どこも訪日観光客で賑(にぎ)わっている。

 浅草3丁目でフランス料理店を営む篠田朋さんに聞くと「もともとラーメン店は多かったが、外国人観光客向けの店が急増した」とのこと。特に目立つのがハラールラーメンで、コースが1万円の高級店も出現しているそうだ。

 「ハラール」とは、イスラム法で食べることが許される食材や料理のこと。反対に、食べてはいけないものは「ハラーム」と呼ぶ。イスラム教を信仰するムスリムが最も避けるべきハラームが、豚肉と酒類だ。

 ラーメンはスープに豚骨を用いることが多く、具のチャーシューが豚肉だから絶対的なハラームである。日本に来てラーメンが食べられないのは、アメリカを旅してハンバーガーが食べられないのと同じ。マレーシア、インドネシアなどから訪日するムスリム観光客が増加している今日、食の多様性の実現に向けて外食店でのハラールの取り入れが活発になっている。

 とはいえ1万円は高い。在日ムスリムや日本人も気軽に行けるハラールラーメンはないものか。見つけたのが「あやむや大塚店」だった。

 扉にはイスラム法にのっとっていることを証明する「ハラール認証マーク」が掲示されている。エジプト出身の女性店長ノハ・エルサエドさんによると、日本で何カ所かあるハラール認証機関のうち最も権威があるマークだという。取得するには調味料に至るまで厳しい検査がある。

 「スープをはじめ、見た目では材料が分からない食べ物が多いため、このマークを見るとムスリムは安心します」

 そう語るノハさんは6年前に来日して福岡外語専門学校で日本語を学び、バリスタを目指して調理専門学校の2年コースを修了した。”こだわりのカフェ”で働きたかったが、個人店が多く外国人の受け入れが進んでいないため、縁あって今の店に就職した。酒類や豚肉を扱うベーカリーで働き、精神的にきつかった経験があるだけに、ハラールの環境にいる現在、安心して働けて幸せという。 

 「あやむ」は、マレー語、インドネシア語で「鶏」を意味し、スープ、チャーシューともに鶏肉で作られる。スープはニンニクがほのかに香り、魚の風味も感じられしっかり濃厚。日本人にも納得の味だ。(写真:定番の「鶏そば醤油」990円。初ラーメンの外国人はもちろん日本人にもおいしい味にこだわる)

 メニューの大半は1000円台。もっと安く提供したいと上司に相談したが、無理だった。ハラールの鶏は飼育から処理まで特別な方法が取られ、原価が高いためだ。

 客との会話が大好きというノハさん。日本人の常連もつき、アラブ世界の食文化について聞かれることが多くなった。ラーメンを入り口に、異文化交流が進んでいる。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.3からの転載】


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