インバウンド旅行者が飛躍的に伸びている。2024年の旅行者数は過去最高であった19年の3188万人を大きく超え3600万人に届く勢いで、1人当たりの消費額も15万8500円から22万3200円へと1・4倍に増加している(24年7~9月期)。23年発表の政府目標は25年に旅行者数3188万人超、消費額20万円というものだが、1年前倒しで達成したことになる。
しかしよく見ると、19年の為替レートは1ドル=約108円、24年が約150円、前述の1人当たりの消費額をドル建てにすれば19年は1468ドル、24年は1488ドルで、実は5年でわずか20ドルしか伸びていない。つまり、インバウンド旅行者が日本で使う予算そのものはあまり変わらず、円安だからたくさんの買い物ができたといったところだ。
消費項目に変化もみられ、高騰している宿泊費を除けば、19年から23年への伸び率では、「交通」「飲食」「娯楽・サービス」よりも「買い物」が高い(観光庁「訪日外国人消費動向調査」)。近年、インバウンド観光はコト消費にシフトしつつあるといわれてきたが、実際に伸びたのはモノ消費だ。
買い物の中でも「衣類」「靴・カバン」などのファッション関連商品の消費額が高くなっており、従来、アジアの旅行者は爆買いするが欧米はあまりモノは買わないといわれてきたが、例えばフランス人の「衣類」「靴・カバン」購入費は19年の3・4万円から23年は6万円へと大きく増加している。
旅行者の年齢層にも変化がみられる。端的に言えば、欧米豪からは30歳代までの若い層の割合が増え、アジアからは反対に若い層が減るという現象が起きている。もともと日本のインバウンドはアジアの旅行者を中心に若い層の割合が多かったが、それが欧米豪にも広がったと言ってよい。欧米からの訪日旅行は高額なため若者には高嶺(たかね)の花だったものが、円安により手が出るようになった結果だ。
こうしたことから浮かび上がるのは、ファッション関連商品が安く買え旅費も安くなったので来日し、ついでに食と観光も楽しむ若者たちの姿だ。それ自体は決して悪いことではないのだが、安さに惹(ひ)かれての好況は、円安が終われば一転する。何より観光が本来目指すはずであった「日本文化と自然の魅力発信」は価格に惹かれて来日する彼らにどこまで伝わるだろうか。
円安によるインバウンド好況とオーバーツーリズム問題が表裏一体となった今、観光は誰に何を発信し何を売るのか、立ち止まって考えてみる必要があるだろう。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 2からの転載】