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米ナスフェアで提供された米ナスのムサカ風

米ナスに懸ける20年間の生産者の努力  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」

 あるレシピ検索サイトで、検索用語の首位が「簡単」から「ナス」に変わったというニュースを目にした。時短で調理できる手軽さが受けるのだろう。近年は色や形など新種も増えたナス。中でも、天ぷらやみそ田楽にするとトロッとして絶品の米(べい)ナスは存在感がある。ところが、外食市場の低迷のあおりを食らい、その需要減少が懸念されている。

 米ナスの生産量トップは高知県で、一年を通して生産している。JA高知県によれば直近の出荷量(計画)は約1300トン。料亭や天ぷら専門店など値の張る飲食店で重宝されてきたが、2000年施行の国家公務員倫理法による官官接待の禁止で、料亭の需要が大幅に減ったそうだ。さらに、新型コロナ禍での外食市場全体の不振の影響も受けることになった。

 しかし、高知県の米ナス農家たちは、こうした事態を何とかしようと行動に出た。県外の飲食店での需要が多い反面、県内の消費者の認知度が低い点を直視し、02年から「県内の消費者に知ってもらおう」とJAや行政など農業関係者の協力を得ながらさまざまな活動を始めた。まず「生産者自ら米ナスを食べる週間」と称し、農家自らが毎日米ナス料理を調理し、人気のおいしい食べ方をレシピにして消費者に知らせる活動を展開した。05年からは、高知市内のレストランに参画してもらい、米ナスフェアを開催。期間中に米ナスを使った料理を提供し、地元消費者を米ナスのとりこにするキャンペーンを展開した。さらに、東京、大阪といった都市の小学校や大学に出向き、出前授業を展開した。これらの取り組みが20回目を迎えた24年には、県内の30店舗で米ナスフェアを実施した。

 米ナスフェアの協力店舗の中には、フェアを機に米ナスメニューを定番化し、定期的に米ナスを仕入れる店舗もあるという。米ナス農家の一人、窪内勉さんは「イタリアンやフレンチのシェフの協力で、若い人たちに認知されるようになり、ありがたい」と話す。窪内さんの地元である嶺北地区では、長らく米ナスを作っていたが、リタイアを決めた農家もいるそうだが、新たに米ナスづくりを始めようと、栽培技術を習得中の若手農家もいるという。

 外食市場の長期低迷により、需要が減少したという野菜は、米ナスに限らないだろう。だが、窪内さんたち生産者の行動力を見るにつけ、食べ手として何ができるか考え、何か行動を起こしたくなる。皆さんもスーパーで見かけたら、普段は買うことが少ない種類のナスにも手を伸ばしていただければと思う。定番のナスにはない食感は食卓を豊かにするはずだ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 51からの転載】


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