サッカーJリーグのヴァンフォーレ甲府が、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)で熱戦を繰り広げています。甲府は、現在国内2部リーグであるJ2に甘んじていますが、昨シーズンの天皇杯優勝によって出場権を獲得し、浦和レッズ、川崎フロンターレ、横浜Fマリノスとともに、アジア各国のクラブチームとの戦いに挑んでいます。ACL優勝国には、クラブチーム世界一を決めるクラブワールドカップへの出場権が与えられます。
甲府は、ACLに挑戦するにあたり大きな課題に直面しました。日ごろホームスタジアムとしている甲府市内の競技場が、ACLの試合を開催する規定に届かず、東京の国立競技場でホームゲームを開催しなければならなくなったのです。国立競技場を借りて採算をとるためには、おおむね1万人以上の観客動員が必要とされましたが、世田谷区民よりも少ない80万人足らずの山梨県民、しかも平日開催となれば、甲府サポーターだけでの動員は厳しいと予想されました。
そこでヴァンフォーレ甲府のチームスタッフは一計を案じます。SNSや駅のポスターなどで、「Jサポに告ぐ、#甲府にチカラを」として、日本を代表して戦う1チームを応援するため、すべてのJリーグサポーターに国立競技場への来場を呼びかけたのです。しかも、ぜひ他チームのユニホームを着て集まってほしいと、ある意味サッカー界の不文律を破ってまで。
通常サッカー界では、特定チームのサポーターが他チームの応援をすることはありません。相手チームを敵と位置づけ、自チームを熱狂的に応援するのがサポーターの定義です。観客席もホームとアウェーに厳然と区切られ、国によってはサポーター同士のいさかいを避けるため、緩衝エリアとなる空席や高い壁で区切られる場合もあります。甲府のアイデアに、当初は他チームの一部サポーターから批判めいた発言もみられました。
ところが、甲府のもくろみは当たりました。ホーム開催の3試合での動員数は、1万2千人弱、1万2千人強、1万6千人と採算ラインを大幅に突破。しかも、他チームのレプリカユニホームを着たJサポが数多く集まり、甲府のサポーターとともに応援歌を歌い、日頃は見られないサポーター同士の交流の場まで生まれました。その光景は、サッカー界でしばしば見られるサポートチームへの強烈な愛情の歪(いびつ)な発露である相手への蔑視や中傷、場合によっては暴力行為などを超越し、純粋に応援する行為を楽しむ様子でした。
サポーターがゴール裏に陣取り、熱狂的に応援するのがサッカーの醍醐味(だいごみ)の一つであることは間違いありませんが、時にそれは敵対するサポーター同士、場合によっては選手や監督への中傷や暴力行為へとつながります。壁によって隔絶された空間においてアイデンティティーが純化されれば、武力闘争へと結びつきやすくなることは、昨今のイスラエル・パレスチナ問題を引き合いに出すまでもありません。国立競技場における3試合を観戦し、応援する行為そのものを楽しむ、ある意味日本的な観戦スタイルの素晴らしさを再認識することができました。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.52、1からの転載】