デジタル技術を活用して地域の課題解決に成果を上げている地方自治体や民間企業・団体を表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」。政府の「デジタル田園都市国家構想」実現に向けた取り組みの一環として2022年度からスタートした。23年度の募集が始まったのに合わせ、22年度「Digi田甲子園 2022夏」の優良事例を紹介する。
事例紹介の第1回は、実装部門で準優勝した前橋市の「マイナンバーカードを活用したタクシーによる高齢者等の移動支援」。
▽紙で利用券発行
公共交通機関が整備されていない地方にとって、車での移動は欠かせない。ただ、運転をしなくなったり、免許を返納したりした高齢者はタクシーを利用することが多く、費用負担を理由に外出機会が減る「移動困難者」となる実情がある。群馬県の県庁所在地・前橋市にとっても状況は同じだ。
前橋市では高齢者ら移動困難者への支援として、タクシー利用料金を補助する「マイタク事業」(でまんど相乗りタクシー)を2016年1月にスタートした。当初は紙による利用券を発行し、タクシーで精算時に、運転手に利用券を手渡すやり方だった。ただ、前橋市交通政策課の藤宗秀美・副主幹は「利用者が増えるにつれ、使用済み利用券の管理や精算などの負担が市役所、タクシー会社ともに大幅に増加した」という。利用者のマイタク利用券紛失や、本人ではない不正使用といった問題も起きた。
▽マイナカードに一本化
前橋市は、政府が進めるマイナンバーカードが免許を返納した高齢者らの身分証明書になることや、市民の多くがカードを持つようになることに着目。18年5月からマイナンバーカードによる利用を導入した。導入当初は紙の利用券と併用していたが、事務量の増加や利用者の混乱などの課題があったため、22年4月からマイナンバーカードのみの運用に一本化した。市は「タクシー料金を補助している自治体は他にもあるが、マイナンバーカードを活用しているのは全国初」と説明する。
利用できるのは、①75歳以上②65歳以上で運転免許証を持っていない人③障がい者、妊婦など④運転免許証を自主返納・失効した人。登録者が1人でタクシーを利用した場合、運賃の半額(上限は1000円)、登録者が複数で乗車した場合は1人最大500円を補助する。年間70回までの利用が可能だ。マイナンバーカードの空き領域に登録者ID番号や利用回数などを書き込むことで利用情報を管理することできるという。
▽利用者のカード取得率92%
利用の方法は、こうだ。市役所などでマイナンバーカードに利用登録→市内のタクシー会社(9社)を予約→乗車時にカードを車載機(スマートフォン)にタッチ→到着時に補助額を差し引いた料金を支払う。
藤宗さんによると、2023年3月末現在で、マイタク登録者数は2万7682人。マイナンバーカードに一本化する直前の22年3月末時点の全市民(約34万人)のマイナンバーカード取得率が44.2%に対し、マイタク利用者のマイナンバーカードの取得率は92.7%で大幅に多い。
登録者のほとんどが75歳以上で、利用目的の約6割が「通院」、次が「買い物」だという。アンケートに利用者からは「病院に行くときに大変役立っている」「運転免許返納者には便利で助かる」「最寄りの停留所のバス本数が少ないので非常にありがたい」といった声が寄せられたという。タクシー会社からも「(紙と比べ)事務負担が減った」と好評だ。
▽郊外からの利用に課題も
ただ、市がまとめた「延べ利用者数」によると、コロナ禍で高齢者が外出を控えた影響もあり、20年度の約25万人から21年度は約24万人、22年度は約21万人と減少した。さらに、郊外から市街地に行くとタクシー料金が高額になることもあり、「市街地と比べ、郊外に住む高齢者の利用が少ない」といった課題が見えたという。このため「長距離の利用に補助額を上乗せするなど支援の拡充を検討している」(藤宗さん)。
今後の展望については、「将来はマイナンバーカードを活用し、多様な交通手段を一体的に提供する移動支援サービス「MaaS(マース)」分野での展開などを視野に入れている」としており、マイナンバーカードの普及と移動の利便性向上に期待を寄せている。