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デザイン・ファーストからの地域DX

 全国各地で推進されている地域のデジタル化は、デジタル導入が目的化しているものも多い。人口減少、少子高齢化における地域課題の解決には市民を含む多様な地域関係者の役割分担の見直し(リ・デザイン)とデジタルを活用した「協働」を実現することが必要である。このためにはデジタルの前にデザインを先行させるデザイン・ファーストの取り組みが重要である。

 ▼地域のデジタル化の状況

 3月29日に「デジタル田園都市国家構想交付金」の令和5年度第1回の採択結果が公開された。採択された団体数は949団体であり、日本各地で地域のデジタル化に関する事業が推進されているといえる。地域のデジタル化は、デジ田構想以外にもスーパーシティ、スマートシティなど、さまざまな名称で推進されている。Society5.0という言葉も含め、これらの言葉は若干対象や重点の違いはあるものの、目的は地域課題の解決、地域産業の活性化、市民の多様なウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)の実現などほぼ共通であり、手段もマイナンバーカードやデータ・AIの活用、データ連携基盤の導入、多様なステークホルダーの連携、住民参加などほぼ同じである。地域のデジタル化に対応するこうした取り組みは地域によって温度感や進度に差はあるものの、全国の自治体が取り組む共通課題になっているといえる。

 一方でこうした取り組みが順調かといえば疑問が残る。日本ではいわゆる失われた30年間に個別組織でのIT化は進んだものの、組織を超えたデータ活用は進まなかった。この事実はコロナの感染状況の把握や給付金の配布等で明らかになり、「デジタル敗戦」という言葉も聞かれることになった。また日本では特定の個人に関するデータである「パーソナルデータ(個人情報を含むより広い概念)」の取り扱いに対する不安や不信感が根強く残っており、巨大プラットフォーマーに実質寡占されている民間領域に比べて公的領域でのデータ活用は進んでいない。各地で推進されているデジタル活用サービスもビジネスモデルに課題があるものが多く持続可能性に懸念が残る。取り組みのなかにはデジタル導入自体が目的化していると感じられるものも多い。

 ▼デジタル・ファーストからデザイン・ファーストへ

 筆者は、地域のデジタル化の目的は、人口減少・少子高齢化のなかで地域サービスの水準を維持(向上)し、持続可能性を確保することだと考えている。戦後の日本は、人口増大を背景にさまざまな活動を細分化・専門化し組織内でのオペレーションを改善することで、世界でもまれな効率的な社会システムを形成してきた。しかしながら近年は課題が多様化・複雑化する一方で、人口減少と予算的制約により専門化された現状の社会システムでは対応が困難になってきているものも多い(具体例として人口減少地域における医療や防災、地域モビリティなどを想定してみればよい)。

 現状の役割分担のまま局所的にデジタルで効率化しても効果は限定的である。人口減少社会で持続可能な地域サービスを維持(向上)するには、デジタル活用を前提に当該活動における役割分担を見直し(リ・デザイン)、データ共有による産学官民の「協働」を実現すること、すなわち地域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション:地域DX)が必要だというのが筆者の考えである。

 このためデジタル導入の前に「デザイン」が必要である。すなわち、市民を含む多様な地域関係者により、(Step1)地域の現状を把握・共有し、(Step2)目指すべき姿(=ビジョン:役割分担と協働の姿、ビジネスモデルを含む)をデザインし、(Step3)そのビジョンを実現するための仕組みと必要とされる「デジタル」をデザインする(市民参加型デザイン)。データの相互運用性を重視し個別の技術は導入可能な最適なものを選定すればよい。

 もちろん、地域DXの実現には、多様な関係者によるデータの共有(アクセス)を可能にするデータ連携基盤や、協働する参加者の資格や実績を証明するデジタル・アイデンティティー基盤などが不可欠になる。また、パーソナルデータの利活用に対する住民の抵抗感を払拭する必要があり、住民のデータリテラシーの向上と活動参加への動機づけについて時間をかけて取り組む必要がある。

 いずれにせよ、デジタル導入の前に、デザインを先行させること、すなわち「デザイン・ファースト」が重要である。地域DXを真剣に行いたいと考える自治体は、市民を含む多様な関係者による「学びと実践の場」を構築するとともに、参加型デザインプロセスを実践しながら、デジタルとデザインの両方に知見のある人材や地域リーダーの育成に努めるべきである。

石垣 一司

 石垣 一司
合同会社エルダット・リサーチ&コンサルティング代表社員。山形県出身。東京大学大学院情報科学修士。富士通研究所にてヒューマンインタフェース、人間中心設計、パーソナルデータ利活用などの研究開発に従事。2022年富士通退社後、合同会社エルダットR&Cを設立。一般社団法人MyDataJapan理事・事務局長


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