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合計特殊出生率1が意味すること 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」

 少子化が止まりません。厚生労働省から、2025年上半期の人口動態統計速報値が公表され、出生数は前年同期比▲3%以上の減少となりました。2224年は、年率▲5%を超える減少率で推移してきたことを踏まえれば、急速な減少に多少ブレーキがかかったとみることもできますが、依然として高い減少率のままです。

 1人の女性が生涯を通じて産む子どもの数とされる合計特殊出生率も低下傾向です。15年に1・45であった合計特殊出生率は、24年に史上最低の1・15となり、今年はその水準をさらに下回ることが確実な情勢で、節目となる1が目前です。

 ここで「合計特殊出生率1」が何を意味するのか、踏み込んで考えてみたいと思います。

 合計特殊出生率が1ということは、わが国の女性が生涯に産む子どもの数が、平均して1人ということです。これは、一世代進むごとに出生数が半減することを意味します。23年に生まれた子の母親の平均年齢は32歳ですから、おおむね30年ごとに出生数は半減することになります。なお、長期にわたって人口を維持していくには、合計特殊出生率として2・07程度が継続的に必要であるとされています。

 次に、合計特殊出生率が1という状況は、複数の子を産む女性がいる一方で、およそ半数の女性が生涯にわたって子どもを1人も産まない、すなわち生涯無子となる可能性が示唆されます。生涯無子率は、4549歳において1人も子どもを産んでいない女性の割合と定義されますが、経済協力開発機構(OECD)によれば、すでに日本はその水準が先進国で最も高い28・3%となっています。

 合計特殊出生率を有子世帯の完結出生子ども数で割った結果を1から引き去ることで、将来の生涯無子率を簡易的に見積もることができます。完結出生子ども数とは、結婚持続期間1519年の初婚どうしの夫婦の平均子ども数です。1人以上子どものある有子世帯の平均完結出生子ども数は、現在2を上回っています。この数値は、以前に比べれば多少低くなりましたが、10年以降は安定して2以上を維持しています。意外に多いと感じるのではないでしょうか。

 少子化が加速しているのは、多子世帯が減っているためではなく、子どもを持たない女性・夫婦が増えているためです。

 有子世帯の完結出生子ども数が2、合計特殊出生率が1という状況が長きにわたり続くと、生涯無子女性の割合は50%となります。かなり衝撃的な数字ではないでしょうか。

 近年は子育て支援策が以前に比べて充実してきており、多子世帯が恩恵を感じやすい環境になりつつあります。有子世帯の完結出生子ども数は、今後も劇的に下がることはないと考えられる一方、出生率はどこまで下がるか見通しづらい状況です。

 「子どもを持たない」という個人の選択は尊重されるべきものですが、その中には経済環境や社会情勢から出産を断念した女性や夫婦がいるかもしれません。これからは、そうした人たちの思いを叶(かな)える少子化対策が求められているのではないでしょうか。

 【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.37からの転載】


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