ITコンサルのフューチャー(東京都品川区)は9月3日、地域経済を活性化させる地方銀行らの地域金融力の強化をテーマにしたシンポジウム「地域経済と金融の未来を考える」を東京都内で開いた。地方銀行の関係者ら約70人が参加し、福島銀行(福島市)の加藤容啓会長や常陽銀行(水戸市)の笹島律夫会長らから、デジタル力を強化した先進的な地域金融サービスの取り組みを聞き、これからの地域金融機関の役割について認識を深めた。
第1部のパネルディスカッションに登壇した福島銀行の加藤会長は「地域金融機関はもともとリアル、対面営業に強く、足で稼いできたという歴史があるが、これからの地域金融機関の経営にとってはデジタルの力とリアルの力をどう融合させていくかが非常に重要になる。デジタルとリアル、どちらかに偏りすぎても駄目で両者のバランスが大切だ」と指摘。
その上で「当行では中期経営計画(2024年4月1日~29年3月31日)の基本方針を『デジタルのチカラでリアルの力を最大化』と定め、昨年7月に稼働させた次世代バンキングシステムを最大限活用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するとともに、本部から営業店、店頭から渉外へ人員を再配置し人的資源を集中することで対面営業を強化している」と述べた。
また福島銀行がフューチャーアーキテクト(東京都品川区)らとゼロべースから構築したアマゾンウェブサービス(AWS)のクラウドを活用した銀行勘定系「次世代バンキングシステム」の効果については「このシステム稼働後1年間(25年6月末時点)で預金事務量の46.5%、融資事務量の30数%を削減できた。あと数カ月程度で目標の50%削減が可能になる」と説明した。
これらのシステム導入効果による事務量の削減で「店頭社員を渉外社員にシフトさせることが可能になった。全社員に占める渉外社員の比率は24年3月期は4分の1だったが、25年3月期は3分の1になった。最終的には全社員の2分の1ぐらいまで渉外社員の比率を引き上げていきたい。福島銀行はお客さまとの接点を増やし、充実したサービスを提供することにより地域経済の発展に貢献したい」と述べた。
常陽銀行の笹島会長は「人口減少に伴うさまざまな地域課題に取り組むには地域で長年活動して信用を築いてきた地域の金融機関が果たすべき役割は大きい。今年4月から始まった中期経営計画(25年4月1日~28年3月31日)では、われわれの事業活動を通じて地域の社会課題の解決に貢献することを掲げている」と述べ、人手不足に悩む顧客へのDX推進や事業統廃合、外国人人材定着の各種支援や高齢者福祉サービス、太陽光発電施設の適切な管理、森林保護など具体的な社会課題解決の実践例を挙げた。
その上で「地元に根差した活動を続けている信用をベースに課題の解決に取り組んでいくことが大切」と強調し、地域金融機関には、信用をてこにした地域課題解決力がある、とした。

金融庁の総合政策局長や金融国際審議官を務めた森田宗男・SMBC日興証券社外取締役(監査等委員)取締役会議長は「今年、金融審議会で議論される大きな柱は三つある。一つは地域金融力の発揮で、地域経済のさらなる活性化の推進と好事例の横展開がテーマ。二つ目は経営基盤強化。三つ目は地域金融機関のモリタニングだ。いま金融行政はこの点の検討を深めてしっかりしたプランを作っていこうという段階にある」などと述べ、地域金融力の強化に向けた政府の動向を解説した。
第2部は、フューチャーの主要事業会社「フュ―チャーアーキテクト」(東京都品川区)の小松高子取締役らが、これまでの銀行勘定系システムの課題を振り返りながら、福島銀行や島根銀行(松江市)で稼働しているフューチャーアーキテクト構築の「次世代バンキングシステム」の特徴を説明した。

次世代バンキングシステムの構築を担当した社員は「このシステムは、銀行それぞれの戦略や制度への対応、取引量の増減などさまざまな要求に応えられる変化対応力を持ち合わせている。金融機関以外の事業者との連携を可能にするフルオープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)のシステムであり、さまざまなサービスがどこからでも利用可能だ。変化の激しい金融市場ニーズに合わせた新サービスを柔軟かつスピーディーに展開できる」などと説明して、次世代バンキングシステムの“変化対応力”を強調した。
小松取締役は「弊社は30年間、銀行のシステムの課題に向き合ってきた。研究に研究を重ねてついに昨年福島銀行さま、今年島根銀行さまに、今までとは全く違う銀行勘定系システムをご提供できた」と現在の導入状況を説明。
また「次世代バンキングシステムのプロジェクトに参画するため、メガバンクを辞め、フューチャーに19年に入社した。少し前だがメガバンク時代は勘定系システムの担当で、商業手形の利率を変える仕事に携わったときは1ステップだけ直すのに3カ月間、ずっとテストしていた。また営業店では業務終了と同時に伝票を集めて番号通りに並べて印鑑を押しまくるといった作業があった。もちろん次世代バンキングシステムではこのようなことはない」と金融システムの変遷を振り返った。
さらに「次世代バンキングシステムはまだ生まれたばかり。これから他業種と連携したりすると、結果として膨大なデータが集まる。それを活用した新サービスを提供するなど、われわれがやるべきことは無限にある。地方銀行の皆さまと次世代バンキングシステムを活用して地域経済を活性化したい。地域から日本を変える、いわゆる世直しを成し遂げたい」と語った。