オーストラリア・ビクトリア(VIC)州ミルデュラに拠点を置く葡萄ファームズ(Budou Farms)は今シーズン、日本がオーストラリア産ブドウの輸入規制を撤廃したことを追い風に、大幅な出荷増を目指し、アジアへも輸出する計画だ。
葡萄ファームズは2014年、日本人の松崎絢子氏と配偶者で農学者のエンリケ氏によって設立された。オーストラリアでは外国人が新規に農業を始めるのは困難だと言われる中、過去10年間にわたり挑戦を続けてきたという。
同国ではほとんどのブドウ農家は生産に専念し、輸出は専門業者に委託する。だが葡萄ファームズは設立当初から生産と輸出を並行して行った。ちょうど設立と同じ年に、オーストラリア産ブドウ(トンプソン、クリムゾン、レッドグローブ)の日本向け輸入が解禁されたことが背景だ。
初年度の輸出量は約20トン。その後も減農薬栽培を進め、安全に食べられるブドウづくりを続けた結果、取引先はスーパーを中心に急拡大した。昨シーズンの出荷先は、ワイズマート全店舗、ヤオコー全店舗、ライフ近畿全店舗、せんどう全店舗、東急ストア、カスミ、イトーヨーカドー、OKストア――など、北海道から沖縄まで全国にわたった。
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■輸出量1000トンへ
そんな葡萄ファームズに昨年、さらなる追い風が吹いた。日本の農林水産省が7月に発表したオーストラリア産ヨーロッパブドウ生果実の輸入規制緩和だ。植物防疫法施行規則の一部などを改正し品種制限を撤廃した。日本の消費者にとっては選択肢が増え、オーストラリアの生産者にとっては輸出機会の拡大や認知度向上につながる。
この動きは、オーストラリア当局が日本側に対し、ブドウの低温処理の国際基準適用を働きかけたことがきっかけ。葡萄ファームズは早くから情報を得ていたことから、出荷品種を拡大する準備に入っていた。今シーズンに輸出するのは、緑の品種のアイボリー、トンプソン、ティンプソンや、赤系のクリムゾン、アリソン、カリータ――などだ。
さらに今シーズンは日本市場に加え、タイの日系小売店ドンドンドンキや百貨店三越でも販売を予定しており、アジア市場の開拓にも力を入れる。今シーズンの合計輸出量は合計1000トンの大台に乗るという。
■2%のマーケッターに
松崎氏は「私が日本人であることが、葡萄ファームズのブランド価値につながっている」と話す。またエンリケ氏がブドウの世界的生産地であるチリ出身の専門家であることが「品質の後ろ盾」になっているという。松崎氏は「外国人という不利が、現在では有利になった」と述べた。
今シーズンから日本へ輸出可能なオーストラリア産ブドウの品種は130種にも上る。だがその9割は品種会社がライセンスを保有する。葡萄ファームズは今後、世界的な品種会社ブルームフレッシュ(Bloom fresh)と提携し、マーケッターとして同社の品種を日本市場に広める役割を担う予定だ。有力企業のマーケッターになれるブドウ生産者は、全体の2%と言われる狭き門。葡萄ファームズの地道な努力と堅実な実績が認められた形だ。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 2月28日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。