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ワイキキ、筆者撮影

観光地は誰がつくるのか  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授

 ゼミの学生たちと先日、ハワイへ行ってきた。ハワイには調査で毎年訪れていたが、コロナ禍の影響で4年ぶりの渡航だ。現地では4年前との変化に気づいた。一つは物価高、もう一つは街の雰囲気である。

 物価の高騰は米国の物価高そのものと円安の掛け算で、フードコートのラーメンが15ドル(2250円)、ホテルの朝食が40ドル(6千円)+チップと、感覚的には日本の2~3倍でため息が出た。

 もう一つの変化は、中心街にあるワイキキビーチ周辺が、のんびりした雰囲気よりも活気と喧騒(けんそう)が勝ってきたことだ。ハワイ全体の訪問者数は、2019年度比で96%(23年7月時点)とコロナ禍前と同じレベルにまで回復したが、観光客の内訳は大きく変わった。現在は本土からの米国人旅行者が多くを占め、日本人旅行者数はコロナ禍前の17%までしか戻っていない。〝ハワイは日本人ばかり〟といわれることも多いが、以前から全旅行者に占める比率はそれほど高くなく全体の2割弱、それが現在はわずか5%である。

 旅行者層については、日本人だとこれまで家族連れやカップル、米国人では長期滞在のシニア夫婦などが多かった。また宿泊費用なども高いため比較的余裕のある層が多く、人出の多いワイキキビーチ周辺でものんびりとした雰囲気だった。しかし現在は、コロナ禍により宿泊費などが下がったのでハワイに初めて来たという米国人旅行者が増えた。彼らは年齢層が比較的若く人種もさまざまで、良くも悪くも街がにぎやかでカジュアルな雰囲気となった。夕食時、気取らない飲食店には外まで行列ができているし、ファストフード店やフードコートも混んでいる。その分、高級店や免税店、ブランド店などは比較的空いていて、ホテルでも高価格帯の部屋が売りにくいという。

 訪問者数は回復し活気が戻ったハワイだが、来訪者の違いによって商業施設の展開も変化した。「高価格・のんびり」「カジュアル・活気」、決してどちらかに優劣があるわけではないが、観光地は事業者や観光資源だけでつくられるのではなく、来訪者によってその雰囲気が大きく変わるのだということをあらためて実感した。

 そういえば、某大手旅行会社が利用者アンケートで「当社の商品を選んだ理由」を尋ねたところ、「客層がいいから」という回答が数多くあったという笑い話のような実話を思い出した。やはり顧客選びはブランドづくりの基本なのである。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.43からの転載】


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