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「研究紹介」 食料品アクセスマップ 農林水産政策研究所レビューNo122(2024年11月)

 今年5月に改正された食料・農業・農村基本法の大きな前進は、食料安全保障が初めて明確に定義されたことだ。国際潮流に沿う形で「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう(改正基本法2条)と定義された。農業政策は、「国全体の量」から「個人の質」に転換することが期待されている。

 食料が手に入りにくい状態は、災害時だけではない。大都市に人口が集中する傾向が続いているため過疎地の店舗が閉鎖され、自動車を運転できないため「買い物に行けない」という高齢者も急増中だ。農林水産政策研究所は、かなり早い時期から高齢化の進展を予想して「食料品アクセス」について研究を重ね、情報を収集してきた。

 同研究所のレビュー11月号に納められた高橋克也上席主任研究官の「2020年食料品アクセスマップと困難人口の推計結果」は、全国調査の最新版だ。店舗(食肉、鮮魚、青果小売店、食料品スーパー等、コンビニエンスストア、ドラッグストア)まで500m以上離れていて、自動車利用が困難な65歳以上の高齢者の人数を「困難人口」と定義し、市町村・都道府県別に集計した。

 11号の表紙は、その全国地図だ。全体の傾向として北陸や東北で困難な人の割合が低い(緑色)ことが分かる。ただし、困難人口の割合が40%以上の地域は全国に散在している。市町村別の詳しいデータは同研究所のホームページで閲覧できる。

 もちろん首都圏など人口が多い地域は、困難者の絶対数も多いが、人口当たりの割合をみると、店舗の都市部の立地が増えているため、横ばいないし改善傾向だ。一方、地方では、自動車の普及率や道路の整備状況が大きく影響する。したがって、災害などで道路が使えなくなった時の問題は深刻だ。

 例えば、石川県は19.6%で全国平均(25.6%)を大きく下回り、東京に次いでアクセス困難人口の割合が低いが、昨年1月1日の能登半島地震では、支援物資が行き届くのに長時間を要し、アクセス困難の深刻さが浮き彫りになった。

 また社会的、経済的な事情で食料を入手できない状況も改善が遅れており、農業政策の中核に据えるべき課題だ。「食料品アクセスは社会問題であり農業政策の対象ではない」(農水次官OB)という旧態依然の発想は改めなくてはならない。


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