温泉旅館に泊まるときの最大の楽しみは、やはり温泉ですよね。私を含めてそう思う方が多いと思います。また、温泉も良いけれど、「食事」こそ最大の楽しみ、と考える方も同じくらいいらっしゃるのではないでしょうか。その土地ならではの食材を味わったり、地元の名物を楽しんだり、考えただけでもワクワクしますよね。
今回は、そんな温泉旅の楽しみツートップ「温泉そのもの」と「食事」を、高いレベルで堪能できる宿、青森県の「奥入瀬渓流温泉 灯と楓(あかりとかえで)」をご紹介します。
「奥入瀬渓流温泉」の開湯は、比較的新しい1963年。当時は「十和田湖温泉郷」という温泉地名でしたが、2000年代に入り、近隣に「十和田湖畔温泉」が登場したこと、十和田湖より奥入瀬渓流が近いことから、2020年に現在の「奥入瀬渓流温泉」へ名称を変更したそうです。
山あいの国道沿いに形成された温泉街に、現在10軒弱の旅館やホテルが点在する静かな温泉地。星野リゾート系列「奥入瀬渓流ホテル」の知名度が高いですが、どの宿もそれぞれの特長を生かしていて、粒ぞろいな印象です。
今回ご紹介する「灯と楓」も、独自の個性を押し出していまする宿の一つ。木のぬくもりを感じる、ホッとするような温かくておしゃれな雰囲気の中、「源泉掛け流しの温泉」と、地鶏「青森シャモロックの食事」を楽しむことができます。2018年にオープンした「灯と楓」は、旧十和田湖温泉ホテルをリノベーションした、全7室の小さな温泉宿。40代の若いご主人が、少しずつ改装を重ね、現在のナチュラルモダンな空間を作り上げています。
お風呂は男女別で、内湯のみの浴室と、内湯と露天風呂のある浴室の2カ所。時間帯によって、男女が入れ替わるため、宿泊すればどちらのお風呂も入ることができます。天井に使われている木材は、青森県産のヒバ、装飾の岩は八戸の青い石、床には十和田石を使用、もう片方の浴室のタイル画は、銭湯絵師が描いた「奥入瀬渓流の銚子大滝」と、浴室にもご主人の「青森」へのこだわりが詰め込まれています。
温泉の泉質は、単純温泉。名湯・猿倉温泉の源泉を引湯し、加水・加温・循環・消毒をせず「完全掛け流し」で、湯船へ供給しています。
お湯は無色透明に近い微白濁で、硫黄由来の白い湯の花がヒラヒラと舞っています。香りからも、ほのかに甘く濃い硫黄を感じられ、ツルツルキュッキュとする肌触りは、やさしくて極上。温泉はぬるめに調節され、ゆったりじっくり入れる長湯向きの湯温です。それでも湯上りは、身体の芯まで温まりポカポカ。お肌もしっとりとしていました。
「灯と楓」のもう一つのハイライトである食事は、薪ストーブがシンボルの「レストラン 薪nina 」でいただきます。
この日の夕食のメニューは、「奥入瀬で育った青い森紅サーモンのカルパッチョ」「野菜のバーニャカウダ」、「青森シャモロック焼鳥」「青森シャモロックのしゃぶしゃぶ」など。目の前のカウンターで調理し、出来たてを出してくれる、コース料理スタイルです。別に注文した「青森純米吟醸飲み比べ3種(「六根」「田酒(辨慶)」「秋あがり」)」と、食事の相性は抜群でした。
今回の食事のメインだった「青森シャモロック」は、20年かけて交配を重ねて完成、すべて平飼い(放し飼い)にこだわった、宮内庁御用達の地鶏です。うまみ成分のグルタミン酸、イノシン酸が一般の鶏肉より高く、それがおいしさにつながっているのだそうです。そんな地鶏を、焼き鳥に、しゃぶしゃぶに、最後はダシのスープでラーメンにして味わい尽くすメニューに感動。旅先でおいしいと評判の上品な焼き鳥屋さんで飲食をした、そんな感覚の大満足な時間でした。
温泉旅行の楽しみツートップの「温泉」と「食事」。地元の食材や、名物料理を堪能し、その土地から湧き出した温泉そのものを楽しむ。思い出す(想像する)だけでも、心が幸福感につつまれます。今回ご紹介した奥入瀬渓流温泉は、奥入瀬の大自然に囲まれた環境も魅力です。春らしい陽気を感じるようになった今日この頃。いつもより少し遠出をして、温泉旅行を楽しみたくなる季節ですね。
【奥入瀬渓流温泉 灯と楓】
住所 青森県十和田市大字法量字焼山64-108
電話番号 050-3085-8605
【泉質】
単純温泉(低張性 中性 高温泉)/泉温55.8度/pH:6.51/湧出状況:動力/湧出量:測定不可/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。