今年の10月は涼しい日が多く、数年ぶりにしっかりと秋を実感することができました。朝晩の肌寒さは、冬の気配すら感じます。日が沈むのもすっかり早くなりましたね。
秋の夜長は、ゆっくりと温泉でくつろぎたくなるものです。週末には、少し遠出をして、山沿いの温泉地を訪れるのもいいですね。今の時期は紅葉が見頃のところもあります。
今回ご紹介するのは、長野県の「野沢温泉 常盤屋(ときわや)旅館」。都心から車で片道4時間ほどと少々離れていますが、掛け流しの硫黄泉と、地元産の食材を使ったフレンチ料理が楽しめる老舗宿です。

新潟との県境に近い、野沢温泉村に湧く野沢温泉。奈良時代に発見されたといわれる歴史ある温泉地で、毛無山(けなしやま)の麓に形成された風情ある温泉街には200軒以上の宿や飲食店が立ち並んでいます。温泉資源も大変豊富で、地元の方が管理する外湯(共同浴場)が13カ所点在し、観光客も寸志で利用することができます。ありがたいですね。
国内有数の規模を誇る野沢温泉スキー場を有していて、冬は外国人を含む多くのスキー、スノーボード客でにぎわいます。


そんな温泉街のど真ん中に建つ「常盤屋旅館」は、創業から380年以上、江戸時代から続く超老舗宿。野沢温泉のシンボルといえる外湯「大湯」の横にあることからも、その歴史の深さがうかがえます。
地上4階建ての和モダンな建物は、大規模ホテルのような重厚さを感じさせ、館内の客室は全15部屋とゆったりしたつくりです。宿泊した和洋室は、「和室10畳+洋室ツインベッド+広縁」と広く、ぜいたくにくつろぐことができました。
お風呂は、男女別の内湯のみ。「千人風呂」「薬師の湯」の二つの大浴場があり、時間帯によって男女が入れ替わります。
「千人風呂」は、横長の浴室に三つの湯船が並ぶ、広々としたつくりです。レトロなタイルや御影石、地元産の大鉄平石などを使用し、アーチなどの造作が特徴の大正ロマン風。湯口は観音様の石像で、荘厳な雰囲気を放っています。


「薬師の湯」は、湯船が一つの小ぶりなつくり。浴室奥の大岩がワイルドで、古民家風の石の湯口が和風の印象です。

二つのお風呂でそれぞれ使用している源泉は異なりますが、泉質はどちらも単純硫黄泉。ほんのりエメラルドグリーンに色づくお湯は、濃厚で焦がしたような硫化水素の香りです。湯船では少し熱めの適温に設定され、入浴するとツルツルスベスベとした感触が心地よく、湯上りは体の芯まで温まったことを実感できます。
老舗の和風旅館ではありますが、食事は地産の旬の食材を使った「和フレンチ」の創作料理です。



この日のメニューは、シャインマスカットのカナッペに始まり、秋ナスとズワイガニのミルフィーユ、キノコ・アイガモ・イチジクなどの山の幸ガレット、サンマのマリネ、イワナのスモーク、信州サーロインロティ、野沢菜おやき、ナガノパープル(長野県が登録のブドウ)と栗のブラウニーのフルコース。一品ずつ運ばれる料理は、お皿の盛り付けも美しく、季節の食材を色彩含めてじっくり味わうことができました。


国内有数のスキー場がある野沢温泉。冬季は宿の予約が困難なほど、多くのウインタースポーツ客でにぎわいます。そのため、風情ある温泉街をまったり散策するなら、秋までの時期がおすすめ。お昼は温泉街の飲食店で食事や外湯めぐりを楽しみ、夜は宿でゆっくり食事と温泉を味わう。そんな非日常は、日々の疲れや悩みをじわっと溶かしてくれるような時間でした。
【野沢温泉 常盤屋旅館】
住所 長野県下高井郡野沢温泉村大字豊郷9347番地
電話番号 0269-85-3128
【泉質】
単純硫黄温泉(低張性 アルカリ性 高温泉)など/泉温68.5度など/pH:8.5など/湧出状況:自然湧出など/湧出量:測定不能/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:あり ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,800以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)
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