b.[ビードット]

「書評」『令和米騒動 日本農政失敗の本質』  現地調査に徹し本質に迫る 共同通信アグリラボ

 高市早苗政権が発足し、米政策について鈴木憲和農相は「増産一辺倒では大暴落を招く」と述べ、「増産にかじを切る」と表明した石破茂前政権の方針からの政策転換を印象付けている。「猫の目農政」との批判もあるが、そもそも石破前首相は具体策を示さないまま退陣し、米騒動の「本質」は論じられていない。

 『令和米騒動 日本農政失敗の本質』著者の荒幡克己・日本国際学園大教授は、2023~24年にかけての米不足の初期段階から「構造的問題の結果というよりも、政府の短期的需給の引き締めの結果だ」と見抜き、「政府の需給計画における引き締めを外すだけで相当量の増産が可能」と指摘してきた。

 本書の第1章では、米不足と価格高騰のメカニズムを解き明かし、「人災」と「天災」の両面から原因を数量的に解析する。極めて説得力があるのは、著者が現場主義を徹底してきたからだ。都市部を除く全国の米産地、40県弱を調査し、1年に20県弱、2年で一巡する現地調査を約20年も続けてきた。

 第2章では、調査を踏まえ、西日本と東日本では米の生産構造がまったく異なっている現状を詳述している。第3章は、米政策を扱う。著者は「日本の稲作自体に構造的な課題が山積みしていることは事実」としながらも、「当面、2、3年のうちに60~70万トン程度の増産は容易」と試算し、米の増産に向けた中期的な課題として、減反、直接支払、輸出を取り上げている。

 この半年のうちに「令和の米騒動」に関する著作の出版が相次いでいるが、本書は間違いなく「決定版」だ。本書は、日本経済新聞出版から発行された。定価2750円(税込み)。

(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)


関連記事

スタートアップ

スポーツ

ビジネス

政治・国際

食・農・地域

株式会社共同通信社