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「遊ぶ広報」―滞在しながら地域を伝える 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんななエコノミー」

 島根県大田市で「遊ぶ広報」という取り組みを知った。県外在住者を対象にしたプログラムで、参加者は14日間地域に滞在し、SNSなどを通じてまちの魅力などを紹介する。情報発信により1日あたり5千円、14日間で7万円の補助が出る。

 滞在中に1日、地元で暮らす地域コーディネーターが案内するアテンドツアーに参加し、地域の方々との交流を通じて、まちや人とつながる機会を持つことができる。あとは自らの関心に沿って行動。石見銀山(いわみぎんざん)、三瓶山(さんべさん)を訪ねるのも、地元の店を巡るのも自由である。観光客と住民の中間に身を置き、自分の視点で地域を見つめ、発信する。

 14日間という期間がポイントなのだという。数日間ではなく2週間滞在することにより、単なる観光ではなく、地域の暮らしに近づき、住民との関係も生まれてくるのだそうだ。アテンドツアーで地元の人とさまざまな関わりが生まれ、そこから交流が広がることもある。14日間の滞在により、人と人との関係が深まり、SNSに投稿された記事や写真が新たな来訪を促す。終了後に再訪し、友人を伴って交流を続ける例もあるという。

 参加者からは「地元の人に教わった小さな店を訪ねるのが楽しかった」「日常の中で人とのつながりを感じられた」といった声が寄せられる。自由な時間と出会いを通じ、参加者自身が新しい地域像を発見し、それを外に伝える。これが「遊ぶ広報」の醍醐味(だいごみ)である。

 2024年度の大田市においては50人を超える参加者があり、今年も応募が好調、20代から40代の参加が多いという。公式サイトやSNS、投稿サイト「note」には体験記や写真が数多く並び、「楽しみながら伝える」という事業名にふさわしい広がりを見せている。

 人口減少が進む中、人を呼び込む施策は各地で模索されている。だが「遊ぶ広報」は、観光誘致でも移住促進でもなく、地域と外をつなぎ関わり続ける契機をつくる仕掛けだ。滞在者にとっては遊び心を持って地域と関わり、自分なりの発見を共有する場となり、地域にとっては外部の視点を受け入れ魅力を再認識する機会となる。

 運営を担うのは石見銀山地域経営研究所。現在、島根県大田市、浜田市のほか、高知県中土佐町、鳥取県智頭町などでもこのプログラムを進めており、さらなる拡大を目指すという。

 人口減少時代、二地域居住を推進する政策も進められている中、地域の「暮らし」に入り、住民の方々との豊かな関わりを持つことのできるこの取り組みは、地方創生の新しい形として今後の展開が期待される。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.36からの転載】


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