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売り手市場なのに終わらない就活 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授  連載「よんななエコノミー」売り手市場なのに終わらない就活

 就活解禁日は一般に3月1日とされるが、全体の4割の学生は解禁前にすでに内定を持っているという。多くは大学3年の夏ごろから実施される企業インターンシップに参加し、そのルートで内定につながったものだ。人口減少、人手不足を背景に新卒の就職環境は売り手市場といわれ、大学教員の肌感覚でも学生からの内定報告が以前より早くなったように感じる。

 早い時期からの就職活動は大学の授業や研究に少なからず影響が出るため、実は教員の立場ではあまり快く思っていないのだが、半面、早い時期に内定が出れば、4年生の1年間を勉学ややりたいことをするなど有意義に過ごせるとも考えていた。

 ところが、内定が早くても実際には就職活動が終わらない。その一つのパターンは内定をもらったものの本当にその企業で良いか迷いがあったり、他にも志望企業があるために活動を続ける学生で、もっと良いところがあるのではないかと迷い続けるもの。やはり売り手市場だった80年代に指摘され〝青い鳥症候群〟とも呼ばれていたが、今また散見されるようになった。

 もう一つは、あえて終えないという学生だ。驚くことに、第一志望の企業に内定しても就活を続ける学生が一定数いる。その理由を尋ねてみると、内定をもらったら就活が楽しくなりもっと自分を試してみたい、将来の転職を考え他業種も見ておきたい、ひょっとしたら第一志望を変えるかも、など本人にとってはポジティブともいえる内容が多いのだが、せっかく第一志望だからと内定を出した企業にしてみればたまったものではないだろう。この結果、1人の学生が内定を5、6社持っていることも珍しくない。

 一方で、どんなに売り手市場でもなかなか内定の出ない学生もいる。志望業界に適性や実力が見合わないなど学生側に課題があることもあるが、真面目で能力があっても性格的におとなしく地味なタイプが苦戦する傾向にあり、やはり就活が終わらない。

 新卒を定期採用するわが国において、学生の就活が終わらないことは企業にとっても採用者が確定しないことを意味する。企業は賃金の引き上げや勤務地の考慮といった好条件を出し、内定後にはきめ細かいコンタクトを取るなど、優秀な学生の採用と囲い込みに力を入れているが、どうもそれだけでは解決しない今どきの課題も多そうだ。

 空前ともいわれる売り手市場だが、企業には採用に難しいテクニックも要求されるまさに〝採用難〟の時代だ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.12からの転載】


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