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IPアドレスやMACアドレス…、いろいろありすぎる問題 【岡嶋教授のデジタル指南】

 「IPアドレスとかMACアドレスとか、いろいろありすぎじゃないですか?」という声をよく聞きます。統一して欲しいですよね、分かります。でも、これだけコンピューターが各所に使われるとなると、統一するのは難しいです。例えば、メールアドレスとLINEのアドレスが違うっていうのは、まあ納得がいくじゃないですか。運営している組織が違うし。でも、メッセージサービスやその他サービスが乱立してくるとやっぱり面倒なので、「Gmailのアドレスは誰でも持ってるだろうから、どのサービスのアドレスもGmailでよくね?」って話になります。

 これ、情報サービスを使う上ではとっても便利ですが、Googleが嫌いな人もいるでしょうし、使えない人もいると思います。また、便利な半面、「Googleが急に会社をたたんだらどうなるんだ」「Googleが闇落ちして悪事に手を染めたら大変なことに!」といった懸念が生じます。事故でパスワードが漏れることだってあるでしょうし。この懸念はGmailが普及するほど大きくなるので、今では結構な数の人がアドレスの統一に対して懐疑的な見方をしています。どちらの考え方も一長一短あるので、短いスパンでアドレスが統一されるようなことはないでしょう。

 もっと基本的なアドレスはどうでしょうか。例えば、よく「パソコンのインターネット上の住所」と説明されるIPアドレスや、Wi-Fiなどで使われるMACアドレスはどちらかに絞れないでしょうか。

 結論から言うと、こちらも難しいです。私たちも時と場所に応じて名前を使い分けます。友だちが3人しかいない場で住所と姓名を読み上げて相手を名指しするのは変ですし、面倒でもあります。そのくらいであればあだ名でよいでしょう。

 でも、500人いる体育館であだ名で誰かを呼び止めようとすれば、同じあだ名を持つ人が複数振り向くかもしれません。ここでは少なくとも姓+名、場合によっては社員番号や学籍番号を組み合わせて相手を特定する必要があるでしょう。「適切な名前」は場面によって変わるので、唯一無二の至高のアドレスを設計するのはなかなか難しいのです。

 情報ネットワークにも同様のジレンマがあります。IPアドレスを住所と表現するのが良いかどうかについては議論がありますが、所属するネットワークとその中でのコンピューターの識別という意味では言い得て妙です。大規模な通信では必ず必要になる形式のアドレスです。

 しかし住所であるがゆえに、そのコンピューターをどこに設置するかを決めるまではIPアドレスが確定しないことになります。また、頻繁に場所を変えるモバイルデバイスでは、それにつれてIPアドレスも頻繁に変わることになり一貫したアドレスにはなりにくい特性があります。

 そこで[メーカー番号+メーカー内通し番号]であるMACアドレスの出番があるわけです。人間であれば氏名に近い特性なため、設置場所が決まる前でも既に確定したアドレスがありますし、使う場所を移動しても一貫したアドレスを使い続けることができます。「氏名」同様に大規模な通信(ネットワーク間通信)では使えませんが、ネットワーク内での通信で使われたり、時には通信と関係のない個体識別にも使われたりしています。

 将来的にはこれらが統一されたり、少なくとも人の目に触れる範囲には入らなくなる(実はたくさんアドレスがあるけれども、隠蔽されて人の目には一つに見える)可能性はありますが、しばらくの間はたくさんのアドレスを上手に使い分けていく必要があるでしょう。

【著者略歴】

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。


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