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田んぼという観光資源 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授  連載「よんななエコノミー」

 旅行目的の多様化が進み、以前では思いもつかなかったものが観光資源として人気になることがある。田んぼもその一つだ。日本人にとっては原風景ともいえるが、わざわざ旅行目的として選ばれるようなものではなかった。それが今、インバウント客の増加に伴い、特に日本の地方の自然や文化を満喫したい旅行者層に注目されている。

 先日、新潟県の松代の棚田群を訪れた。大小さまざまな水田が斜面に広がる風景で、人気が高いのは田に水がたまり「水鏡」が現れる春秋の季節だという。夏の時期は稲穂が実った光景が広がっていたが、これもまた自然の恵みを感じられる別の魅力がある。

 観光目的の潮流はモノからコトへ、見るだけの観光から体験観光へと移ってきているが、田んぼという観光資源も実は見るだけのものではない。松代エリアでも、棚田の周辺のトレッキングや地元の農産物での料理体験などを通じ、里山を感じ暮らしを理解するための風景として位置づけており、単なる写真映えを提供するものではない。例えば棚田トレッキングでは、地元のアウトドアガイドが棚田の成り立ちや生息する動植物、雪国の暮らしなどに触れていく。旅行者は田んぼというテーマを切り口に地域の自然や文化を楽しむ、というものだ。

田んぼを眺めるためだけに作られたryugonのテラス

 インバウントの日本酒人気も追い風となっている。おいしい日本酒を楽しんだ後、酒蔵を見学する旅行者は多い。さらにその原材料である米とはどのようなものか、どのような自然の中で育てられるのかといった日本酒をテーマとしたストーリーの原点となるのが田んぼで、日本酒をきっかけに田んぼに興味を持つインバウント客もいる。こうした旅行者は徐々に増えてきており、特に欧州からの旅行者は自国の農村との違いに興味を持つそうだ。

 田んぼの風景そのものをぜいたくな空間として宿が提供している例もある。南魚沼のryugonという宿には、宿泊客が田んぼを眺めるためだけに作られたテラスがあり、ビーチリゾートで海を眺めるように田んぼの風景を眺め滞在を楽しむ。特にインバウント客からは「里山の自然と地元の暮らしをのんびり眺めることが大きな魅力」と評価も高い。

 日本人にとって見慣れた風景や日常の暮らしは、実は海外からの訪問者にとっては非日常であり、何げない日常に観光資源のポテンシャルがあることも。日常に旅行者が入り込むことは一方で生活を脅かすリスクも持ち合わせているが、どう見せていくか、何を伝えていくかを見極めれば、地域理解につながるキラーコンテンツにすることもできる。

(東洋大学国際観光学部教授 森下晶美)

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.36からの転載】

 


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