【コラム】肥大化で身動き取れない五輪 残念なJOCの「旧態依然」

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で東京五輪・パラリンピックが1年延期となった。国際オリンピック委員会(IOC)は3月17日の時点でまだ表向きは予定通りの開催方針だったが、欧米での爆発的な感染の広がりを受け、わずか5日後の22日には延期へとかじを切った。

 夏季五輪はこれまで3度の中止があるが、延期となったのは史上初めて。来年7月23日開幕に決まったことでアスリートには新たな目標が定まったが、先が見通せないコロナ危機は続いている。IOCは中止という選択には消極的だったが、したくてもできないという方が実情に近いだろう。五輪は簡単に中止できないほど肥大化したイベントになった。

 まだアマチュアリズムの時代には、戦争という世界規模の危機で中止を決めることはそれほど難しい判断ではなかった。だが1984年ロサンゼルス五輪の成功をきっかけに「商業主義」にどっぷり漬かった五輪は、身動きの取れない巨体となってしまった。IOCの2013~16年の収入は57億ドル(約6150億円)で、そのうちの73%がテレビ放映権料となっている。さらに1社で日本円にして年間約30億円を支払うといわれるワールドワイドスポンサーや大会ごとのスポンサーに加え、開催地やその国の政府などステークホルダーと呼ばれる利害関係者の思惑が五つの輪の中でうごめいている。多くのカネが投資されており、中止は何としても避けたい事態なのだ。

 延期論が強くなったとき、私は22年夏の開催になるのではないかと考えた。世界的なスポーツスケジュールがぽっかり空いており、最強のスポンサーである米テレビが受け入れやすい日程だったからだ。だが、来年夏のビッグイベント、世界選手権を開催予定の陸上と水泳の国際競技連盟(IF)がIOCに歩み寄り、21年夏への道が開かれた。世界陸連の会長はロンドン五輪組織委を仕切ったセバスチャン・コー氏、世界水泳開催地は福岡と、理解のある相手だったことで話はスピーディーにまとまった。決してアスリートファーストとは言えないものの、1年の延期は選手のモチベーション維持のためにも許容範囲だろう。

 一連の流れの中で気になったのは、主導権を発揮することのなかった日本オリンピック委員会(JOC)だ。山口香(やまぐち・かおり)理事が3月20日に新聞社のインタビューで「私の中では延期しないで開催するという根拠が見つからない。選手は情報共有されず、不安や不満が山ほどあると思う」とアスリート側に立って問題提起した。もっともな意見でJOCでの議論が期待されたが、動きは見られないままだった。同24日にIOCのバッハ会長と安倍首相の電話協議で「1年程度の延期」が決まったが、この政治主導決着の際もJOCのリーダーが存在感を見せることはなかった。1980年モスクワ五輪ボイコットで政治に翻弄(ほんろう)されたJOCが40年たったいまでも旧態依然としているのは残念極まりない。

【筆者略歴】

 後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。

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