【コラム】天才は天才を知る、大谷選手を立ち直らせたイチロー阿闍梨

 米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手がア・リーグの最優秀新人(新人王)に輝いた。しかも記者の投票では予想を上回る大差がついた。野球の本場で「Two-way phenom(二刀流の天才)」(MLB公式サイト)の歴史的なチャレンジが認められたことはうれしい限りだ。日本選手の新人王は2001年のイチロー選手(マリナーズ)以来、17年ぶりの快挙となったが、2人には相通じるものがある。ともにストイックなまでにその道を極める姿勢があり、質の高いプレーで野球本来の楽しさを米国のファンにあらためて示した。

 イチロー選手は1年目からヒットを量産した。本塁打だけではない、打って走るという面白さを存分にアピールし、守りでもレーザービームで観衆の度肝を抜いた。並み居るメジャーリーガーたちも、そのスピーディーなプレーに魅了されていった。100年近くも前に活躍したジョージ・シスラー選手らの存在を再確認させたのも意義あることだろう。余談だが、うちのカミさんは求道者、イチロー選手のことを尊敬の念を込めて「阿闍梨さま」と呼んでいる。

 若き大谷選手が挑んだのはあのベーブ・ルースである。彼も100年ほど前のレジェンドだが、「野球の神様」として知らない人はいない歴史上の人物。そのルース以来となる本格的な二刀流挑戦に、当初は懐疑的な記者やファンも多かったようだが、大谷選手はしなやかに、そして軽々とハードルを越えた。チームメートで大リーグを代表するスーパースター、マイク・トラウト選手も「ショウヘイの歴史的な二刀流のプレーをわれわれも楽しんだ」とMLBサイトでコメントしている。イチロー選手同様に、メジャーリーガーが注視する選手となった。

 残念ながら6月に右肘の靱帯損傷で投手としては4勝(2敗)に終わったが、三振は51回2/3で63奪三振をマーク。打者としては復帰後の9月に7本塁打を量産してシーズン22本塁打を記録した。ルース以来となる2桁勝利、2桁本塁打こそ逃したが、「シーズン10試合登板、20本塁打」はルースに並ぶ2人目の快挙。「シーズン50奪三振、2桁本塁打」はMLB史上初となる記録となった。

 先にNHKで放送された特番で、オープン戦で防御率27.00、打率1割2分5厘と低迷した大谷選手が、開幕直前にイチロー選手に悩みを相談したというエピソードが明かされた。その時にイチロー選手が行ったアドバイスは「自分の才能、やってきたことを信じた方がいい」というもの。天才は天才を知る。大谷選手はその「欲しかった言葉」をきっかけに立ち直ったそうだ。

 イチロー選手は大谷選手について「世界一の才能といってもいい」と語ったことがある。来季は手術した右肘の回復のために打者に専念することになるが、努力を惜しまずに野球に打ち込む大谷選手の来年以降の活躍がいまから楽しみでならない。

【筆者略歴】

後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。

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