【コラム】2020年東京五輪の成否握る「酷暑対策」

 2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策で検討されている「サマータイム(夏時間)」の導入に批判の声が多くなってきた。

 米国などのサマータイムは時計を1時間進めるが、今回の提案ではなんと2時間も進める。1時間でも体への負担がかかりそうだが、2時間となるとさらに心配。加盟国が採用している欧州連合(EU)では廃止の動きもあり、ここへきてNHKでも反対意見がよく紹介されるようになった。9月3日朝のニュースでは、IT専門家の検討集会で出た「インフラ対応に4~5年は必要で、防災対応にも影響を及ぼす」との反対意見を伝えた。システム改修に時間がかかり、2年後の導入は実質的には不可能とのことだ。

 ITには疎い私でも、これではサマータイムの実施は無理だと思う。システムの不具合で通勤電車が止まったり、銀行のカードが使えなくなったりすれば、パニックだ。それだけいまの社会生活はITシステムに頼っているといえよう。混乱だけは避けたい。

 日本で人気の高いマラソンが、サマータイム導入の一つのきっかけとなったことは間違いないだろう。20年東京五輪のマラソンは、女子が8月2日、男子が同9日に実施される。ともに午前7時のスタートだから、時計を2時間進めると午前5時のスタートとなる。ゴール時間が午前7時台となり、まだ暑さもしのげるのではないかという計算。ただ、2時間進めることで、開始が2時間繰り上がる競技も当然出てくる。午後4時半開始のサッカーが暑さ真っただ中の午後2時半に繰り上がったら、選手はたまったものではない。もちろん観戦する人にも熱中症の危険度が増す。

 ここで誰もが感じる素朴な疑問が浮かぶ。「なぜこんな暑い時期に五輪をやるのだろう?」。7月下旬、最高気温40度を超えた日本の危険な暑さに、海外メディアでも東京五輪への懸念が報じられるようになった。英ガーディアン紙(電子版)は「史上最高41.1度のひどい熱波が、20年五輪の選手や観客を危険な状態にさらす心配をあおった」とリポートした。20年東京五輪の会期は、7月24日から8月9日までの17日間。今年のこの期間は、8月2日の気温37.3度を最高に、35度を超える猛暑日が4日、30度を超える真夏日がほかに9日もあった。どう考えても世界最高峰の国際総合スポーツ競技大会を開催する時期としてはふさわしくない。

 この時期にやるのは、国際オリンピック委員会(IOC)が夏季五輪の開催期間を7~8月に限定しているからだ。五輪最大のスポンサーであるテレビ、中でも米テレビの意向を踏まえている。NFLや大リーグ、サッカーなどプロスポーツのスケジュールの関係で、五輪会期を入れられる唯一の「端境期」がこの時期。日本円にして約3000億円(16年リオ五輪)もの放映権料を払うテレビには逆らえないというわけで、このスケジュールとなった。

 それでも過去最高の暑さに見舞われた現状を見れば、会期の変更がベストなのは明らかだろう。何とかならないものかと、考えてしまう。開催まで2年を切りIOCに掛け合うのはもう無理というのなら、大会の成否は一にも二にも「酷暑対策」にかかってくる。マラソンは5時スタート、屋外競技では早朝や夜間試合にシフト…。観客やボランティアを守る安全な場所の確保…。各競技団体と話し合い、総力を集めて、今まで以上にきめ細かく知恵を絞るしかない。秋が来てこの夏の異常な暑さを忘れるようだと、手遅れになる。みんなが心配している。

【筆者略歴】

後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。

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