【甲子園―100回目の夏⑨】大阪桐蔭の強さに脱帽、力尽きた吉田投手

 大会前半ほどの酷暑ではなく、試合前は甲子園球場に心地よい風さえ吹いた。平成最後、100回目の夏の決勝は願ってもない好カードとなった。全国各地から集まったエリートがしのぎを削る大阪桐蔭は、史上初となる2度目の春夏連覇を狙う。対する金足農は秋田県立で、地元選手ばかりの「雑草軍団」。その中心にいるのが、まぎれもなくこの大会の「顔」となった鉄腕・吉田投手。狙うは東北勢悲願の初優勝だった。

 午後2時開始予定とあって、球場の開門は午前11時に設定されていた。ところが徹夜組らが球場から阪神甲子園駅に続く道にも並んだため、開門は早朝6時半に早められた。異例となった4時間半もの前倒しが、この試合の人気を物語っていた。

 4万5千の大観衆の多くは、金足農の応援に回った。私学優位の高校野球にあって、公立高校の出場は年々減り、今回は8校。昨年と同じ大会史上最少の数だが、今年は記念大会で代表校が49から56に増えたことを考えるとその割合は史上最低。グラウンドに入ってきた金足農ナインには球場全体を包み込む大きな拍手が湧いた。

 そんなアウェー感を、大阪桐蔭はいとも簡単にはねのけた。2本塁打などで5回までに12点を奪い、勝負を決めた。ドラフト1位候補の藤原、根尾両選手に中川主将の統率力、豊富な投手陣、勝負強い下位打線。どれをとっても超高校級だが、これにデータ分析が加わった。ベンチ入りした3年生の小谷記録員は、コーチとともに決勝戦を前に「午後8時から午前2時までビデオで(吉田投手の配球を)分析した」と言い、「10人目のメンバーとして貢献できた。100点です」と胸を張った。過度なガッツポーズもなく、相手選手の負傷にベースコーチが速やかに救援に駆けつけるなど、その振る舞いには「王者の風格」さえ漂った。

 大阪桐蔭は2008年からの11年間で7度目(春3、夏4)の甲子園大会優勝を果たした。この間、すべてのVチームを率いた西谷監督は甲子園通算55勝9敗。勝率はなんと8割5分9厘となり通算20勝以上の監督で歴代1位、優勝回数でもPL学園の中村順司元監督を抜いて単独トップとなった。西谷監督は「最強のチームになった。もっともっと大阪桐蔭を大きくしていきたい」と語った。その強さには、素直に脱帽するしかない。

 吉田投手は力尽きた。準決勝まで一人で投げ抜いた鉄腕も、最後は体に力が入らなかったという。直球の威力、制球の良さに加え、けん制やバント処理もうまい。見ていて楽しく、引き込まれる投手だった。甲子園で881球。5回でマウンドを降りてほっとした。かつて徳島商・板東投手や横浜・松坂投手の延長戦での投げ過ぎが、引き分け再試合の規定導入や変更を促したように、休養日の増加などをぜひ話し合ってほしい。

 第1回大会の秋田中(現秋田)以来、秋田勢では103年ぶりの決勝進出。最初の大会と100回記念の大会で決勝を戦うという、巡り合わせの妙にうなった。残念ながら新調された深紅の大優勝旗は東北の地には至らなかったが、昭和の匂いのする金足農の「9人野球」は強い印象を残した。

【筆者略歴】

後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。

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