【甲子園―100回目の夏⑧】非情な幕切れ、2度目のタイブレーク

信じられないような、劇的な結末だった。100回記念大会の2回戦、星稜-済美はタイブレークに入った延長13回に済美・矢野選手の甲子園大会史上初となる逆転サヨナラ満塁本塁打が飛び出した。9-9の打撃戦は、13回表に星稜が2点を奪ったが、その裏無死満塁から球史に残る一発で決着した。切れると思った打球は、左翼方向への浜風に乗って右翼ポールを直撃した。ファウルかなと、いったんは打席に戻りかけた矢野選手は「今は頭が真っ白」と試合後も興奮が冷めない状態が続いた。

タイブレークは、甲子園大会では今春の選抜大会から導入された。延長12回までに勝負が決まらなかった場合、13回からは無死1、2塁に走者を置いて早期決着を図る特別ルール。日本高野連では2014年から本格的に議論を進め、17年9月に甲子園での採用を決めた。選抜大会では適用される試合はなかったが、この夏は1回戦の佐久長聖-旭川大で初めて実施され、14回表に佐久長聖が1点を入れて5-4で競り勝っている。

2度目のタイブレークは、強烈なインパクトを残した。甲子園の逆転劇は「筋書きのないドラマ」とよく言われるが、今回は人為的に走者を置く状態から始まっただけに、複雑な感情が渦巻くのは私だけではないだろう。「作られたドラマ」と吐き捨てる人がいるかもしれない。

ルールとはいえ、敗者には酷だった。星稜は第61回大会(1979年)では箕島との延長18回の死闘の末に敗れ、第74回大会(92年)は松井選手が「5連続敬遠」と打たせてもらえず明徳義塾に競り負けた。そして今回、またしても非情な幕切れに天を仰ぐことになった。

試合の早期決着を図るタイブレークは、選手の健康管理を優先させることが狙いの一つだったはずだ。だが、この大会の2試合を見る限りでは、投手に過度の負担がかかってしまったことは否めないだろう。いきなり走者を背負っての投球は、精神的にも肉体的にも明らかにきつい。規定で出た最初の2走者は投手の自責点とはならないという。つまり満塁本塁打を打たれた今回の投手の自責点は「4」ではなく「2」。記録の面では投手への配慮もうかがえるが、生身の人間にとっては満塁弾を浴びた事実はあまりにも重たい。

気温35度が当たり前のようになり、日本の夏は変わった。この「酷暑」はもちろん高校野球にも影響を及ぼしている。熱中症対策は甲子園でも呼びかけられているが、足をつって降板する投手や代走を送られる選手が続出しており、球審が軽い熱中症で交代する試合もあった。

次の100回を見据えて、甲子園大会も改革の必要性に迫られる。投手の投球数や投球回数の制限はもちろんのこと、休養日を増やすことや早朝・ナイター試合の実施、開催時期の変更も考えていかなければならないだろう。さらには「聖地」甲子園球場のドーム化や、大会のスリム化といった思い切った議論にも踏み込んでほしい。

 

【筆者略歴】

後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。

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