永田町に新たなジンクスは生まれるか

 永田町には不思議なジンクスがある。例えば衆院議長が解散を宣言すると、本会議場では万歳三唱が鳴り響く。本来、首を斬られて喜ぶのは奇異であるが、「大きな声で『ばんざーい』を叫ばなければ、国会に戻ってこられない」(自民中堅議員)のだという。極めて俗人的かつ現実主義的な代議士たちだが、なぜかこうした非科学的なジンクスには滅法弱い。

 もっとも、先の解散でも、小泉進次郎前環境相が「ばんざーい」と叫ぶことはなかった。小泉氏はかねがね「万歳をする意味が分からない」と眉をひそめ、今回も「(飛沫対策のため)国民に大声を出さないようにと呼び掛けているのに、なぜ叫ぶのか」と批判した。小泉氏が15万票近くの大量得票で難なく5選を果たしたことに鑑みても、このジンクスの信ぴょう性には疑問符が付く。

 偶発的な要素があるにせよ、ジンクスが破られていないこともある。わが国で五輪が開催された年には、首相が退陣するといわれてきた。確かに前回の東京五輪(64年)のあとも、その後の札幌五輪(72年)と長野五輪(98年)のあとも、それぞれ首相が退陣している。今年の春ごろ、このジンクスを持ち出す者がいたが、大方は「まさか」と一笑に付した。

 しかし、オリンピックが終わり、パラリンピックもフィナーレに差しかかった9月4日、菅義偉首相(当時)が突如、自民党総裁選への不出馬を明言して事実上の退陣表明を行った。「オレも例のジンクスとやらは、ただの偶然だと思って信じてなかったけど、まさか本当に退陣するとは…。思わず鳥肌が立ったよ」とは閣僚経験もある自民党ベテラン議員の言葉である。

 あまり知られていないことだが、もう一つ確立途上のジンクスがある。それは血液型がAB型の首相は自らの“ブレ”が原因で余儀なく退陣するというものである。過去には宮沢喜一首相(当時)が政治改革を巡って右往左往し、衆院選で大敗を喫した。橋本龍太郎首相(当時)も、財政構造改革を進めながら、やにわに減税策を打ち出し、参院選で惨敗した。

 血液型と性格の関係性を強く意識するのは日本人くらいだといわれているし、全く当てにならないことも多い。専門家(?)の分析もまちまちである。だが、総じてAB型の人はまじめで、まとめ役には打ってつけであるものの、お叱りを覚悟で記せば、二面性があったり、優柔不断だったりするという。

 そもそも日本人の約4割がA型、3割がO型、2割がB型、1割がAB型であるが、吉田茂元首相や中曽根康弘元首相など、歴代首相の半数はO型だという。O型は戦闘的なところがあるが、リーダーに向いているとの分析もある。もっとも、小泉純一郎元首相がA型、安倍晋三元首相がB型であることを見ても、血液型とリーダーシップとの間にはほとんど関連がないともいえる。

 岸田文雄氏は、戦後三人目のAB型の首相である。もともとハト派の岸田首相が「任期中に憲法改正を目指す」と言い切ったり、森友問題再調査の意向をすぐ修正したりするなど、すでにAB型の片鱗が見え隠れしている。そういえば、金融所得課税を打ち上げながら撤回しているし、「令和版所得倍増」もどこかに行ってしまった感がある。

 首相といえども独裁者ではないのだから、与党との十分な調整が必要とされることは当然である。しかし、大きな政治決断に際して軸足が“ブレ”ては、国民の信頼は薄れていく。山あり谷ありの政権運営を、この先、AB型の岸田首相がどのように担っていくか、楽しみでもあり、不安でもある。過去に二度あったことがもう一度起これば、ジンクスとして立派に成り立つかもしれない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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