負けっぷりの良さにこだわった吉田茂元首相の像

【コラム】選挙の負けっぷり

 最近、あえて通知表に成績を記さなかったり、運動会などで順位を競わせない学校が徐々に増えているらしい。1等やビリを生み出さない“手つなぎゴール”といった方法もあるという。だが、それらは教育的な観点からの方針であって、世の中の勝負事では、ほとんどの場合、勝者と敗者が生まれる。

 いにしえより「勝負は時の運」「勝ちに不思議な勝ちあり」などといわれるように、必ずしも強い者が勝つとは限らない。だが、どのような場合であっても、勝者には謙虚さが必要とされるし、敗者には“負けっぷり”の良さが求められる。大相撲の翔猿が人気を博している理由の一つは、まさにあっぱれな負けっぷりにある。

 戦後、連合国軍最高司令部(GHQ)との交渉を担った吉田茂元首相は、「戦争で負けて外交で勝つ歴史」を刻むため、何よりも負けっぷりの良さにこだわった。それは改めるべき制度は思い切って改めつつも、死守すべきものは体を張ってでも死守した点からも伝わってくる。時にはGHQの要求に笑顔で応じ、時にはウイットを巧みに駆使して拒み、また時には相手を手玉に取りながら戦後日本の礎を築いた。

 翻って日本の選挙では、なかなか負けっぷりの見事な敗者は見られない。「不徳の致すところ」「力及ばず」などと神妙な面持ちで頭を下げるものの、爽やかさからはほど遠く、聞いている側の支持者は、支援した満足感よりも落選の悲しみに打ちひしがれる。「勝てば祭り、負ければまるでお通夜だよ」(自民中堅議員)との表現は実に分かりやすい。

 1か月前に行われた自民党総裁選でも同じような光景が見られた。岸田文雄政調会長(当時)は「私の実力不足。私自身が変わっていかなければいけない」、また石破茂元幹事長は「足らざるところは全て私の責任」とわびたものの、2人の“敗軍の将”の言葉には負けっぷりの良さは感じられなかった。

 「岸田氏は2位になれて満足だったが、石破氏は思いのほか票が入らず、かなりのショックを受けた」(全国紙デスク)と見られている。そのため、2人の敗戦の弁は正直な心境が反映されたものだったのかもしれないが、少なくとも「捲土(けんど)重来の思いに駆られるような、琴線に触れるものではなかった」(若手議員)ことは間違いない。

 敗戦の弁が、時には名演説として後世に語り継がれるのは、米国大統領選である。敗者は支持者の面前で堂々と勝者をたたえ、国の団結を訴えるが、決して思いつきなどではなく、推敲(すいこう)された原稿に基づいている。「終わりよければ全てよし」とはシェークスピアの戯曲から来た言葉であるが、敗者の最後の演説が負けっぷりの良さをかたどる。

 4年前、すさまじい誹謗(ひぼう)中傷合戦の末に敗れたヒラリー・クリントン氏でさえ、「昨夜、私はトランプ氏に祝意を伝え、この国のために協力することを申し出ました。彼が全てのアメリカ人にとって、この上ない大統領になってくれることを願っています」で始まる敗戦の弁を述べ、負けっぷりの良さを示した。

 わが国の選挙における“前例”がおいそれと変わるとは思えない。1年以内に行われる衆院選でも、あっぱれな敗者にはお目にかかれないだろう。だが、いよいよ3週間後の11月3日には、海の向こうで大統領選が行われる。選挙結果もさることながら、敗れた方がどのような敗戦の弁を語るのか、あるいは語らないのかも見ものである。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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