【コラム】ウィズコロナで選挙運動も様変わり

 「選挙の神様」とも称された田中角栄元首相は、初めて国政選挙に挑む者に「個別訪問3万軒、辻説法5万回」のノルマを課した。「歩いた家の数、握った手の数しか票は出ない」が口癖であったという。時代は流れても、有権者とのスキンシップが重要であることには変わりはない。組織をつくり上げていく上で、ミニ集会の果たす役割も大きい。

 コロナ禍の到来で、社会も生活も大きく変わったが、選挙にも大きな影響をもたらしている。7月5日に行われた東京都知事選でも、各候補は屋内の大会や集会を自粛したし、街頭でもフェイスシールドを用い、もっぱら“エアタッチ”を繰り広げた。少なくとも口角泡を飛ばして熱弁を振るう、かつての光景は影を潜めた。「このような選挙は初めてであった」(都選出衆院議員)という。

 都知事選だけではない。規模を問わず、その他の地方選でも、候補者の選挙運動はウィズコロナ型になっている。選挙カーを走らせ、時おり遠くから街頭演説はするものの、屋内での大会や集会は取り止められている。プラスに働くかマイナスになるかわからないため、企業や知人宅への訪問もためらわれている。

 昨今、事前活動を含めた選挙運動で主力になっているのはインターネットにほかならない。コロナ対策に追われていたこともあるが、今回の選挙で小池百合子知事もオンライン選挙に徹した。ネット選挙は7年前の公選法改正で解禁になったばかりであるが、ツイートなどのSNSや動画配信はウィズコロナ時代の選挙でいきなり主役になりつつある。

 候補者と有権者との媒介手段が増えることは、間違いなく良いことである。自分の好きな時間に好きな場所で候補者の主張を聞くこともできる。集会などではなかなか尋ねられない質問も、SNSでは可能なこともある。そして何よりも、ネット選挙であれば、起訴された河井克行・案里議員夫妻のように、現金を配ることはできない。

 しかし、これまでの“密”の選挙運動がネットに代替されることには大きな問題もある。インターネットの利用度や能力には個人差があるし、高齢者の中には苦手な人も多い。こうしたネットリテラシーの問題をなおざりにしたまま、ネット選挙やリモート運動に突き進むことは民主主義の土台を揺るがしかねない。

 さらに、「候補者や候補予定者が足で稼がない、稼げなくなると、政策や人柄は二の次で、結局はタレントなど知名度の高い者が有利になりかねない」(閣僚経験者)のも事実かもしれない。小池知事が圧勝で再選されたのは、これまでの取り組みが評価されたこともあるだろうが、最も大きな理由は抜群の知名度があったからであろう。

 誤解を恐れずに記せば、ネット選挙とはいわば通信販売のようなものである。宣伝通りのものであることもあるが、中にはひどい目に遭う場合もある。通販であればクーリング・オフが可能だが、選挙であればそうはいかない。商品でも候補者でも、やはり“手に取る”意味は実に大きい。

 では、ウィズコロナの時代、どのように候補者を吟味していけばいいのか。「スキンシップとネットのハイブリッド(混合型)が望ましい」(自民若手議員)のかもしれないが、引き続き“密”を回避するとなると、候補者同士を比較できる討論会の役割がこれまで以上に重要になる。さらに新聞やテレビ、とりわけ地方紙やローカル局の使命は一層大きくなる。

 この先、コロナ禍がどうなるか、現時点ではだれも分からない。感染者数がゼロに近くなったり、治療薬やワクチンが開発されたりとしても、以前のような選挙運動は難しいかもしれない。まだウィズコロナの時代の選挙運動は確立していないが、一つだけ言えるのは、いつの時代でも有権者が受け身のままであれば、民主主義は十分に機能しないということかもしれない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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