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【コラム】追い風が吹いても野党は笑えず

 米国大統領選の本選挙は来年の11月3日だから、まだ1年3カ月も先のことである。来年の事を言えば鬼が笑うというが、政権奪還を図りたい民主党からは20人超が名乗りを上げ、討論会などで主張が戦わされている。マラソンにも例えられる大統領選は、1年以上の長丁場で候補者が絞り込まれていく。

 たとえ強気の発言を繰り返していても、再選を目指すトランプ大統領にとり、民主党候補が最終的に誰になるのかは気が気でない。来年秋を意識して、すでにトランプ氏は日本に対しても安保体制の見直しや貿易問題の是正に言及しており、日米関係を外交の基軸に据える安倍晋三首相にとって、それは決してありがたい話ではない。

 安倍内閣の支持率は比較的高い水準で推移しており、首相の外交手腕もその一要素になっている。しかし、もしも“盟友”のトランプ氏から厳しい対日要求が突きつけられれば、「いったい何のためのゴルフだったのか、何のために十数回も会談してきたのかと野党に追及される」(自民党国対関係者)ことになりかねない。

 しかし、別の視点で安倍政権が危惧するのは、米国の“風”が日本に伝播することである。1993年1月にクリントン大統領が誕生すると、その半年後、わが国で38年ぶりに政権交代が起き、非自民勢力による細川護煕政権が発足した。2009年1月にオバマ氏が大統領に就任すると、9月に自民党は野党に転落し、民主党代表の鳩山由紀夫氏が内閣を担った。

 鳩山氏に政権の座を明け渡す際、麻生太郎首相(当時)は選挙の敗戦の弁の中で、「自民党に対する長年の不満不信が積み重なった結果だ」と自己分析した。確かに長期政権ともなれば、知らず知らずのうちに“不満のガス”は溜まりやすく、それが何かの拍子に引火・爆発しやすい。

 細川、鳩山の両政権発足前夜、すでに国民の中に自民党政権に対する“不満のガス”は充満しつつあった。そして米国における政権交代、とりわけ若いリーダーへの待望論がわが国に影響を与え、充満していた“ガス”に引火したと考えることができる。つまり、わが国の政権交代の一因は、米国の政権交代・世代交代に求められるのである。

 1993年衆院選と2009年衆院選の両方を戦った自民党のベテラン議員は「とにかく変化を求める期待と空気が漂った。理屈では説明のしようがないが、米国の影響を強く受けたことは間違いない。クリントンが訴えた『ホープ(希望)』やオバマの『チェンジ(変革)』といったイメージは、そのまま日本の野党に重ねられた」と述懐する。

 もしも来る米国大統領選で、民主党候補に女性や若い世代の者がなり、トランプ氏を脅かす存在に躍り出れば、「二度あることは三度ある」とのことわざが安倍首相の頭をよぎり、多少の戦慄(せんりつ)が走るかもしれない。有力な民主党候補次第では、安倍首相の衆院解散戦略も練り直しを迫られることになりかねない。

 しかし、そもそも米国に吹くかもしれない“風”を追い風にできる政党は、現時点で、日本にあるのだろうか。わが国の有権者が一瞬でも米国民主党の大統領候補とイメージを重ね合わせられる野党リーダーは、今の日本にいるだろうか。選択肢のないことは残念なことであるが、その分、安倍首相は枕を高くして眠ることができる。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治アナリスト。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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