【コラム】山梨県知事選は政権の試金石

 「驕(おご)れる者久しからず」とは、威張り散らかしている権力者を戒めるために用いられるが、この言葉が安倍晋三首相に向けられて6年がたつ。安倍首相が政権に返り咲いたときに幼稚園に通っていた児童は、来春、もう中学生になる。すでに安倍首相の在任期間は歴代5位だが、このままいけば、来年2月には4位の吉田茂を、6月には3位の伊藤博文の元首相2人を抜く。

 第4次安倍改造内閣が発足したとき、「在庫一掃セール」などとやゆされた。確かに新鮮味や期待感に欠けるだけでなく、回収が必要な「不良品」も混じっていた。もっとも、片山さつき地方創生担当相や桜田義孝五輪相の説明・答弁では、与党内からも任命権者の責任が問われるはずだが、「二人とも二階派。触らぬ神に祟(たた)りなし」(中堅議員)となっている。

 不甲斐ない野党にも、大きな責任はある。休会中は野党に政権追及の機会が与えられないため、国民は大目に見ていたが、臨時国会が始まっても体たらくに変わりはない。突っ込みどころ満載のはずにもかかわらず、野党議員の質問は相も変わらず週刊誌記事の後追いばかりである。これでは支持されるわけがない。

 とはいえ、政権には必ず終わりが訪れる。民主主義国では通常、それは任期の満了か選挙の敗北によってもたらされる。安倍首相の場合、自民党総裁任期が終わる3年後だと想定されているが、もっと早く終わるかもしれない。そしてその兆し、つまり「終わりの始まり」は意外なところから芽生えるものである。それは不満のマグマの噴出だともいえる。

 もう30年も前のことであるが、自民党総裁任期が特例で延長された中曽根康弘首相(当時)は意気軒昂であった。だが、1987(昭和62)年3月の参院岩手補選では、弔い合戦であったにもかかわらず、自民党候補は野党候補に敗北を喫し、中曽根首相の影響力に陰りが見え始めた。続く統一地方選でも自民党は振るわず、レイムダック(死に体)化に拍車が掛かった。

 安倍首相にとっての試練は何になるかといえば、まずは1月27日投開票の山梨県知事選であろう。10月の沖縄県知事選で自民党候補は負けたが、それは特殊要因が重なったためであり、自民党内から政権の責任論は聞かれなかった。これから全国の至るところで知事選が行われるが、それらの結果が政権の浮沈に直結するとは考えにくい。

 だが、山梨県知事選の場合、自民党は元衆院議員で、二階俊博幹事長の政策補佐を務める長崎幸太郎氏を擁立。野党の大半は旧民主党の衆院議員で現職の後藤斎知事の再選を後押しする。この他にも出馬する候補が現れるかもしれないが、自民党と野党による事実上の一騎打ち=ガチンコ対決になる公算が大きい。

 たとえ相手候補が現職であっても、保守王国の山梨県で自民党候補、それも二階幹事長の「秘蔵っ子」が敗れることになれば、党内から「安倍では参院選は戦えない」とのイエローカードが出され、政権そのものの求心力は一気に低下しかねない。逆に野党の方は、遅ればせながら、大同団結に向けて動き出すかもしれない。

 たかが知事選、されど知事選である。結果次第では潮目が変わる可能性は決して小さくない。自民党内で「参院選、消費増税、オリンピックなどと言っているが、そのときは安倍ではないかもしれない」(閣僚経験者)とささやいている者はまだまだ少数だが、年が変われば、そうした声は多数になるかもしれない。「政界一寸先は闇」とは言い得て妙である。

(政治アナリスト 楠 拳太郎)

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