2022年4月8日=1097
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算
4月8日。
もはやこの日は、私の三大記憶日の一つに昇格した。3年前の4月8日、肝臓転移が判明したからだ。それまでの三大記憶日は、己とヨメさんのそれぞれの誕生日と結婚記念日やった。
さて本日4月8日を迎えて、足し算命(余命に目を向けるのではなく生きた日を数えるモノでもちろん自称)は1097と相成りました。ひとえにうれしい。ただし喜んでばかりもいられぬ事情もある。まさに悲喜こもごもだ。
喜ばしいのは、1ずつ足してきた日数が、1000を超えたことである。転移を知らされメチャクチャへこんだ3年前の今日は、まさかここまで生きられるとは思えなかった。1000超えを目標にした訳じゃない。しんどい手術および抗がん剤を頑張ったかいがあった。本当にありがたい。
▽胸膜に影?
一方の事情は、新たな転移出現の兆しだ。これはうれしくない、はなはだ悲しい。
その場所は胸膜(きょうまく)。胸膜とは簡単に言えば肺と胸壁の間にある膜のこと。今年に入ってからCT検査で発見された。5ミリほどの影が数カ所ある。間隔を2カ月あけて再度撮影したCTでは、悪化はしてないけれども消えてはない。悲観ばかりではないが楽観ばかりでもない。
2カ月という期間でどんどん大きくなっていないことからは、もしかするとジストの転移ではないかもしれない。通常がんは増殖するものだから。まずはひと安心できる。しかし場所が胸膜なのは気がめいる。悪性腫瘍がしばしば飛来する場だからだ。
▽炎症性変化か
現時点で、肝臓転移は持ちこたえてくれている。
抗がん剤は効果ありと判定されており、私もそう考えている。だったら全身にも抗がん剤は行き届いているはず、そう信じたい。すると現段階でCTに現れている影は、炎症性変化という可能性もある。
しかし、この炎症性変化である。テレビドラマの一場面がよみがえった。唐沢寿明さんが主演した「白い巨塔」(2003ー04年、フジテレビ系)だ。
唐沢さん演じる外科医はドラマの後半に自身ががんを発病。しかも手術前には転移ナシと診断されたにもかかわらず、開胸すると胸膜に無数の転移が見つかる。従って手術できず、抗がん剤の効なく後に死亡した。
要するに炎症性変化に見えても実はがんのこともあり、またCTに映らないがんもあるということだ。己の現状にも十分当てはまる。さらに落ち込む。
▽どうせなら○○にモテたい
こんな考えに駆られながらこうも思う。もしもここまで生きてこなければ、胸膜転移を憂えるようなこともなかった。肝臓転移のままで死ねたんや。それにしても、なぜがんはここまでオレを好いてくれるんやろ。かなうならば〇〇〇〇からモテたいのに。そう言えばとある異国の患者と関わった時、患うがんの性別を聞かれたことがあった。詳細は聞き返さなかったが、そんな文化もあるらしい。
恐らく数カ月後にCTを検査することになるだろうが、その際に悪化しているのか、そうじゃないのかなど、いま分かるはずもない。分からないことを考えてもキリがなく意味もない。意味ないことは苦しい。だったら己にとって意味あることに目を向けたい。その方が気ぃ楽に生きられる。
▽出会いに大感謝
ここで改めて4月8日。よくぞここまで生きられた。頑張った己をほめたい。自画自賛の自己満足、これが心地よい。そしてこの3年間、いろんなヒト・モノ・コトに出会った。その多くは、いや全てがジスト発病によると言っても過言ではない。がんを生きてきた意味があった。全てに大感謝する中で、やっぱり一番はヒトとの出会いかな。
それでは皆さん! わが著「緩和ケア医が、がんになって」(双葉社、2019)を、応援よろしくお願いしまぁ~す
(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”)
おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。
このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。