寒さが骨身に染みる季節になりましたね。特に朝晩の冷え込みは、まさに冬本番です。こんな時は、芯まで冷えた身体を温泉で温めたいものです。新型コロナウイルスの状況が今後も読めない中、温泉をゆっくり楽しむために、温泉旅館に「籠(こ)もる」スタイルも増えています。お部屋でまったり読書にふけり、気が向いたら温泉に漬かる。そんな過ごし方もすてきですよね。
今回ご紹介する温泉は、都内からもアクセスしやすい箱根・強羅の「箱根本箱」。2018年のオープン以来、さまざまなメディアに登場していることもあり、ご存じの方も多いと思います。この宿は、「暮らすように滞在する」をコンセプトとしたブックホテル。1万2千冊の蔵書とともに、強羅の良質な温泉、地元の食材をふんだんに使用したイタリアンをじっくり味わうことができます。

新宿からロマンスカーと箱根登山鉄道を経由して、強羅駅でケーブルカーに乗り換え、3駅のところにある「中強羅駅」。そこから5分ほど歩くと「箱根本箱」の重厚な建物が見えてきます。距離では箱根登山鉄道の「強羅駅」からも徒歩圏内に思えますが、急坂を登り続けないとならないため、ケーブルカーを経由し「中強羅駅」から向かうのがおすすめです。強羅駅から歩き続けると、真冬でも到着するころには汗だくになるレベルの過酷な道のりです。

「箱根本箱」は元々、日本出版販売の保養所だったところを、新潟の宿泊施設「里山十帖(じゅうじょう)」などを手掛ける株式会社「自遊人」によりプロデュースされ、2018年に誕生。出版社の保養所だった出自から、ブックホテルに生まれ変わったそうです。
1万2千冊を超える本を有する箱根本箱。吹き抜け空間に広がる本棚は「衣・食・住・知・遊・休」の6ジャンルに分かれていて、本の背表紙を眺めているだけで楽しいです。お気に入りの本が見つかったら、いたるところに配置された読書スペースで、好きなだけ読みふけることができます。

本は部屋にも持ち込むことができ、ほしいと思ったら購入も可能。本好きにはたまらない空間です。また、館内ではコーヒーやハーブティーが飲み放題のため、落ち着いたカフェにいるような感覚です。本の良い香りとコーヒーの香りに包まれ、リラックスして過ごすことができます。

「ブックホテル」というキャッチ―なネーミングに気を取られがちですが、ここは箱根の名湯「強羅温泉」エリア。良質な温泉を「掛け流し」で提供しています。源泉は「強羅」と「大涌谷」と、箱根を代表する2種類を引いていて、男女別の大浴場ではどちらのお湯も楽しむことができます。
「強羅」の源泉の泉質は、ナトリウム-塩化物泉。無色透明で、ほんのり塩ダシ味のする癖のないお湯です。塩分の効果で保湿力が高く、湯上りはお肌しっとり。大浴場では男女とも内湯に引かれています。

もう一つの「大涌谷」の源泉は、酸性-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉。乳白色で、ほのかな硫黄の香りが漂い、温泉情緒抜群です。酸性の湯質は殺菌効果が高く、こちらも塩分と芒硝(ぼうしょう、硫酸塩)の効果で保湿力のあるお湯です。大浴場では、女性用は露天風呂、男性用は内湯と露天風呂で楽しむことができます。

大浴場も魅力的ですが、ここでは全客室に専用露天風呂が完備。こちらには「強羅」の源泉が引かれ、温泉に漬かりながら、箱根の山深い景色を堪能することができます。また、シャワールームも設置されているため、大浴場まで行かなくても身体を洗うことができます。そのためか、大浴場は常に空いていて、ゆったりできる穴場状態になっています。

食事は地元の食材をふんだんに使った「自然派イタリアン」。神奈川や静岡の有機野菜やフルーツ、お肉に、相模湾、駿河湾で水揚げされた海産物を、本場ミラノ帰りのシェフが表現する「ローカルガストロノミー」です。夕食ではそんな料理をフルコースで堪能することができます。
この日のメインは、静岡県富士宮産「萬幻豚」のステーキにイチジクと西洋野菜「ルバーブ」のソースが添えられた料理。そのほかに、神奈川県山北町の「天然黒トリュフ」がスライスされたトルテッリなど、シェフこだわりのメニューが次々に登場します。また、ワインやビールも国産のものを中心にラインアップされ、その日の食事に合うものが提供されます。

本だけでなく、良質な温泉に自然派イタリアンまで堪能できる「箱根本箱」。観光名所が充実する箱根エリアにありますが、静かにこもるように滞在する過ごし方がおすすめです。私は1泊のみの滞在でしたが、できることなら連泊したいな、と強く思いました。
本の香り、温泉の香り、コーヒーの香りに包まれた空間で、「箱根本箱」の世界に没頭する時間は、今までにない深く充実したひとときでした。
【強羅温泉 箱根本箱】
住所 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
電話番号 0460-83-8025
【泉質】
<強羅温泉>
ナトリウム-塩化物(低張性 アルカリ性 高温泉)/泉温89.8度/pH:8.6/湧出状況:動力/湧出量:毎分96リットル/加水:不明/加温:なし/循環:あり、なし/消毒:不明
<大涌谷温泉>
酸性-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉(低張性 酸性 高温泉)/泉温56.3度/pH:2.5/湧出状況:蒸気造成混合泉/湧出量:日784トン/加水:不明/加温:なし/循環:なし/消毒:不明
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,000以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。